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「甲子園のヤジがすごかった」近江・多賀監督が明かす“浅野翔吾vs山田陽翔”の舞台裏…申告敬遠は“一つの勝負”なのか?
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNanae Suzuki
posted2022/10/19 17:01
今年の夏の甲子園、山田陽翔(近江)と浅野翔吾(高松商)の対決。全4打席の舞台裏を近江の多賀章仁監督に聞いた
多賀 あのまま負けていたら、この敬遠は間違いだった、ということになっていたでしょうね……。それはそれで覚悟していました。
――最終的に近江が再逆転し、7-6で逃げ切ることになるのですが、あの展開で、よくぞこのゲームをものにしましたよね。
多賀 浅野君のホームランが三回でまだよかったと思うんですよ。あれが中盤から終盤にかけて出ていたら、うちは間違いなくやられていた。1点差でも勝ったので、まあ、七回は敬遠でよかったのではと言ってもらえる。
――八回表、浅野君との五度目の対戦も、実は七回と同じ1アウト一、二塁でした。ここは山田君をあきらめ、二番手の星野世那君をリリーフに送りましたが、あそこも申告敬遠がチラリと過ったのでしょうか。
多賀 それはないですね。山田をあきらめた時点で、もう勝負するしかないと思っていました。山田だから敬遠という選択肢もありえたので。星野の場合、あの場面で歩かせて満塁にしたら、暴投とか、四死球の可能性が高くなる。だったらここは勝負して、打たれても仕方ないと思っていました。でも、レフトフライに打ち取ってくれた。あそこは、もう、ラッキーとしか言いようがなかったですね。
敬遠という「もう一つの勝負」
――敬遠というと「逃げ」というイメージがありますが、やはり一つの選択であり、勝負なんだなということがよく伝わってくる試合でしたよね。
多賀 申告敬遠制になって、以前よりも、カードとして切りやすくなった面はある。ただ、塁が詰まった状態での敬遠は、やはり怖い。どうであれ、山田がいてくれたから、こういうゲームを勝ち切れたんだろうなというのはすごく感じました。
――この夏の甲子園の2大スターの対決となって、最後の最後、甲子園の女神が実績に勝る山田君を残すことを選んだ、みたいにも感じました。近江は昨年の夏から今年の夏まで三度甲子園に出場し、この試合が14試合目だったわけですからね。
多賀 だから、やっぱり山田だったんでしょうね。抑えて欲しいときに抑えてくれる。打って欲しいときに打ってくれる。この試合は、点数は取られましたけど、それでも勝ちを呼び込んでくれる。この一年間は山田が近江の顔であり、屋台骨を支えてくれましたね。
《つづく》
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