――0アウト一塁から相手が送りバントを失敗して、1アウト一塁になったんですよね。もしバントが成功して、1アウト二塁になっていたら？

多賀　絶対、歩かせてます。もう、間違いなく。ただ、この場面は塁が詰まっていたので、最後の判断は任せると。山田の性格上、そう言ったら、絶対に勝負したがるだろうとは思っていたんですけどね。いくつもの修羅場を経験している投手ですから、もちろん、抑えてくれるのでは、という期待もありました。ただ、こいつと勝負したいという気持ちが前に出過ぎたかな。だから、あれだけ素晴らしいホームランになったともいえる。浅野君もいい投手ほど燃えるというか、力を発揮するタイプでもありますし。試合中にそんなこと考えてはいけないんでしょうけど、あれだけの打球を間近で見られて、幸せやな、とも思ったぐらいですから。

初回時点で「今日は浅野君にやられそうだなと」

――試合前、浅野君対策は、どのように練られていたのでしょうか。

多賀　とにかく浅野君の前にランナーを出さないことですよね。浅野君にソロホームランを打たれて1点なら仕方ないと思っていました。配球に関しては、どれだけインコースを意識させられるかだ、と。ただ、細かなことは伝えていません。バッテリーに任せていました。山田は実際に対戦する中で、感じ、考えることのできる投手なので。でもインコースはほとんど突けなかったですね。それだけ警戒していたのだと思います。

高松商・浅野翔吾 ©Hideki Sugiyama

――あれだけの打者が1番にいるというのは対戦相手からすると、どうですか。

多賀　先発ピッチャーは、まずは初回、それも先頭打者をしっかり抑えたいものなんですよ。彼は足が速いので出塁率も高い。長打も打てる。第1打席、いきなり外の変化球を片手で拾ってレフトの横に持っていかれたでしょう。あれをツーベースにされて。二塁へのヘッドスライディングも迫力がありましたよね。あれは嫌やったな。今日は浅野君にやられそうだなというイメージが、私の中でぐわーっと大きくなってしまった。あと、1番におると、その日、もっとも多く対戦しなければならない打者になる。普通で4打席、多いと5、6打席回ってくる。ピッチャーは嫌なものだと思いますね。

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