マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
カープがドラフト1位指名を公表…苫小牧中央高の右ピッチャー・斉藤優汰とは何者か?「小説が好きなんです」記者は彼の“説明力”に驚いた
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/10/15 17:00
苫小牧中央高の本格派右腕・斉藤優汰(189cm87kg・右投左打)。カープがドラフト1位指名を公表している
「でも自分、もともとすごい人見知りで、ここ(知内高)の環境にも慣れなかった。こっちの人のテンションになかなかついていけなくて」
坂本投手は、知内よりさらにもっと西の江差の町からフェリーで2時間半。奥尻島の中学から、知内高に進んだ。
「ひとりだとグズグズしてしまって、ダメだったですね。同期に中学時代の野球仲間がいて、そいつに部員をいろいろ紹介してもらって、自分からも話すようにして。いろんな事を先輩に質問するように心がけて、だいぶ話せるようになりました。野球はチームスポーツですから、コミュニケーション、大切にしないと」
レフトポールへ走っていく美しい後ろ姿
夏の大会が終わって、およそ1カ月半。ブルペンで投げ込む坂本拓己。
プレート一塁側を使って、ホームベースの三塁側に食い込むクロスファイアーが3球、4球と続く。サウスポーの「生命線」だ。
この時期、そのボールがガンガン投げられるのは、「夏」が終わっても、たゆまぬ努力を続けている証拠だ。練習して、キレる体を作っておかなければ、クロスファイアーを続けることはできない。
……と、クロスファイアーのつもりで投げたボールが、逆にシュート回転してど真ん中に入る。
アアーッと空を仰いで、えび反った坂本投手に、今のようなボールは、ホームランにされて取り返しのつかないことになる。そういうボールを投げてしまった時は「悪い、悪い」ではなく、たとえば「ポール間走1本」を自らに科して実行するのはどうか? 現役を引退した高3の秋は、誰も厳しいことを言ってはくれないのだから。自分で自分に厳しくしないと……そうした意味での「おせっかいアドバイス」をしたら、
「うっし!」
ライトのフェンス沿いをレフトポールに走っていくその後ろ姿の美しかったこと。これから伸びていく人のみずみずしさを思いっきり感じさせてくれた瞬間だった。
「ウチに入った頃は、人と話もできなかったヤツが、今は職員室の先生全員のモノマネやって、これが上手いんですよ。こういうのも、成長したっていうんですかね」
監督さんには、夏の準優勝もプロ注目もうれしいのだろうが、こういう事のほうが、実はもっともっとうれしいのかもしれない。
苫小牧に、知内。
北海道の紅葉が真っ盛りになる頃の10月20日。
秋の校舎に歓声が上がることを、今は祈るばかりである。