知内（しりうち）高校のグラウンドは、外野が見事なまでの総天然芝。ファールゾーンも広くとったいわゆる「甲子園サイズ」の上に、ライトフェンスのすぐ向こうにもう1つ、知内町営野球場が隣り合って、こんなに恵まれた練習設備もなかなかないだろう。

　その代わり、冬場の強風と猛ふぶきは、慣れていない者にとっては筆舌に尽くしがたく、「気候のいい時にばかり来て、北海道、いいとこだ、いいとこだ、言うんでないよ」と、昔、札幌の炉端焼きのおばちゃんに叱られたことを思い出す。

　外野の芝生からこっちに走ってくるユニフォーム姿の笑顔が、マスク越しにもよくわかる。

　初めて会うのに、なんだかすごくフレンドリーな空気を漂わせながら、「はじめまして……」となった。

　この春、北海道の左腕といえば、東海大札幌高・門別啓人と知内高・坂本拓己。共に昨年の秋から注目されていた剛球左腕だ。

プロ志望届を出している知内高の左腕・坂本拓己（180cm85kg・左投左打）。奥尻島の中学校から進学してきた　©Sankei Shimbun

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　平均していいボールが投げられて、完成度の高そうな門別投手と、投げるボールにムラはあっても、指にかかった時の速球には抜群の破壊力を秘める坂本投手。

　対照的な印象の2人の北海道を代表するサウスポーが、この夏の南・北海道大会の準決勝で投げ合い、2対1の僅少差で、知内高が決勝に駒を進めた。

「結局は、決勝で札幌大谷さんに打ち込まれて7点奪われて負けたわけなんですけど、あの時は疲れもあったんでしょうし。あの“敗戦”で本人、逆に火が点いたみたいで、それまでは進学するかなぁ……って言ってたのが、あのへんから急に、プロって思いになったらしくて」

　道内出身の指導者がとても多い中で、知内高・吉川英昭監督は大阪・桜宮高で勝負野球に明け暮れた方だ。先輩に、阪神・矢野燿大監督や八戸学院光星高・仲井宗基監督がおられる。

奥尻島の中学校からやってきた「すごい人見知りで…」

　140キロ前半から145キロの速球に、いい角度で右打者の足元に食い込んでくるスライダー。そこにカーブを織り込んで、速球とチェンジアップが坂本投手の勝負球か。

　プレート一塁側を踏んで投げ込んでくるクロスファイアーがわずかに外れたあとに、もう1つ、同じクロスファイアーで攻めてくる勝ち気な投球。失点した直後に、カバーからマウンドに戻ってくる走りもしっかり膝が上がっていて、動揺を見せない。もの怖じしないピッチャーだ。

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