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ラグビーPRESSBACK NUMBER
「僕に関わる人には確実に迷惑をかける」それでも病とラグビーに向き合った早大生を支えた仲間たちと母の言葉
text by
中矢健太Kenta Nakaya
photograph byAsami Enomoto
posted2022/10/14 11:04
再びラグビーができる今に感謝しながら、大学ラストシーズンの戦いに臨んでいる早稲田大学SH小西泰聖(4年)
2022年2月、小西は練習への部分復帰を果たした。約1年2カ月ぶりのラグビー。仲間とグラウンドに立ったとき、今までにないくらい緊張した。声も出せなかった。
でも、そんなことはどうでもよかった。ここに戻ってきた。そのうれしさが勝った。ワクワクが止まらず、前日はうまく寝付けないほどだった。
なによりうれしかったのは、自分のパスを取ってくれる相手がいることだった。入院中はずっとひとりでボールを触っていた。投げても、手元に返ってくることはなかった。それが今この瞬間は、誰かとパスができている。投げたボールを取って、返してくれる。その状況が本当にうれしかった。
前進しつつも、もっとやりたいという気持ちと、それに追いつかない身体とのバランスを保つことはやはり難しかった。3、4月は休みを挟みながらも動くことで感覚を取り戻し、5月から本格的に練習に入った。ここから徐々に体調も安定していく。
動くことに慣れてくると、頭の中のイメージと実際の動きとのギャップに悩まされた。できると思っていたこと、できていたことができない。そればかりに目が向いて、自分を責めていた。
だが、ある時「全部できない」を前提に置いて、割り切ってみた。
気が楽になった。
プレーしながら、あれもできる、これもできる。ラグビーって、やっぱりめちゃくちゃ楽しい。ラグビーを始めて間もない頃に戻ったように感じた。
「試合している絵が見えてきたんだよ」
6月末には夏合宿のゲームで復帰の可能性が出てくるほど前に進んだ。大田尾監督とトレーナーチームを交えて会話したとき「タイセイが試合している絵が見えてきたんだよ」。監督にそう言ってもらえたのがうれしかった。
「そういう生き方が誰かに勇気を与えるよ」と言われたことがある。そうかもしれない。人生に絶望したときから、小さな一歩を踏み続け、ひとつの道にしてきたのは確かだ。だが、小西の考え方は至って謙虚だった。
ラグビーノートにこう綴っている。
「この生き方が、誰かを苦しめる、悔しいと思わせることにもなりかねない。だから、あまりひけらかすのはやめた。自分は勇気を与える存在になるかもしれない。でも、それ以前に、たくさんの人の言葉に勇気をもらっている。勇気をもらいながら、勇気を与えるために生きる」(2022年4月28日)