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ラグビーPRESSBACK NUMBER
「僕に関わる人には確実に迷惑をかける」それでも病とラグビーに向き合った早大生を支えた仲間たちと母の言葉
text by
中矢健太Kenta Nakaya
photograph byAsami Enomoto
posted2022/10/14 11:04
再びラグビーができる今に感謝しながら、大学ラストシーズンの戦いに臨んでいる早稲田大学SH小西泰聖(4年)
ではなぜ、復帰を選んだのか。
「それでも待ってるって言ってくれる人がいて。僕以上に僕がラグビーをする姿を待ってくれている人たちがいて、それを伝えてくれる人がわずかにいて。
両親なんか本当にその代表だと思うんですけど、僕以上にすごく苦しんで、悩んで、どうしたら戻れるのか、どうしたらもう一回前みたいに笑えるのか。僕以上に苦しんでいたと思っているので。それこそ、両親とも距離を取ろうって思っていたくらいだったので。なんか考えさせてしまっているなって思っていました。
戻る理由といえばそこですね。こうやって考えるのもすごく疲れるじゃないですか。こういうの(食事ファイル)書いたりするのも、なんのために我慢しているのかって思うし、この生活すごくやめたいし、ラグビーを辞める選択をすればきっと楽なんだろうなって、生活自体は。
夢は絶たれますけど、きっと楽なんだろうな……。(異常が見つかって)1年ですからね。長いなあ、やめたいなあ、とは思うんですけど、僕のそういう意思、想いを超えて、突き動かしてくれる存在がいて。間違いなくそういう人が数人ですけど、いる。両親は間違いなくその代表格で、目標は早慶戦、早明戦に出ることですけど、きっと僕がどんな試合でもグラウンドに戻れることができれば、その姿を見せることができれば、嬉しいですよね。
僕の意思を超えて動かすってある意味、心臓みたいなものじゃないですか。そういうところに感謝を示す。どれだけありがとうって言っても、伝えきれないと思います。だから、達成できたよっていうのは伝えたいなって思います」
小西が求める“強さ”の意味
小学生の頃、母に薦められてから、小西が幾度となく読み返してきた本がある。三浦しをんの『風が強く吹いている』。箱根駅伝を舞台にした物語だ。作中には、ふたりの対照的なランナーが主人公として登場する。
象徴的なシーンがある。「長距離ランナーの一番の誉め言葉って何だと思う?」という問いに、ひとりは「“速い”じゃないですか?」。もうひとりは「俺は“強い”だと思う」。
初めて読み終えたとき、母は「どっちが主人公だと思う?」と尋ねた。速くゴールテープに辿り着く選手と、与えられた距離を走り切る選手。当時の小西は、迷わず前者だと答えた。
今の小西は、後者を選ぶ。
「何歳になっても、自分のそのときのベストを更新するために走る。世界記録でなくても。そこですね、僕が求めている強さっていうのは」
一番にはなれないと分かっていながら、なぜ走るのか。なんのために自分は頑張ろうと思うのか。その理由を持つ者には、ブレない強さがある。それは、小西にも言えることだった。
なんのために復帰するのか。その理由が、自分の中で固まった。母が言った「自分が大切にしたいもの」は、小西をより強くさせた。
彼のラグビーノートにはこう書いてある。
「復帰すると決め、必死に頑張れる理由、原動力は、周りで支えてくれる人、待ってくれてる人がいるから。『その人たちのために』であることを再確認。今までラグビーをすることに理由なんて持ったことなかったから難しいけど、今は本当にそれだけ。辛いとか、こんな生活やめたいとか、ラグビーやりたくないとか、俺の意思を超越して、俺を突き動かす力、パワーを感じる。辛いことに変わりはないけど、『人は誰かに勇気を与えるために生きている。誰かに勇気をもらいながら』という言葉は、まさにこういう場面のことを言っているのだと深く理解した。頑張ろう」(2021年11月13日)