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「エラーをすると泣きそうな顔をしてるでしょう?」西武・辻監督が喜んだ“リーダー山川穂高”の成長…愛された指揮官が6年間で残したもの
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byKYODO
posted2022/10/11 06:00
今シーズン限りでの退任を発表した西武ライオンズ・辻発彦監督。ファンにも気さくに手を振り返す、親しみやすい指揮官だった
総じて、辻監督の印象は「人をよく見ている監督」だった。選手のこと、コーチのこと、我々メディアのこと、そしてファンのこともよく観察していた。
本拠地であるベルーナドームに来場したことのある人はご存知だと思うが、ベルーナドームは観客用通路がスタンド中段にあるため、構造上、人の行き来がよく見える。チームの低迷中には、大量リードを許せば試合の途中でも、帰宅しようとバックスクリーン後方の出口に向かい、移動を始めるお客さんの姿が嫌でも目に入った。
辻監督の就任1年目、連勝が続いているころ、監督から「お客さんが試合の途中で帰らなくなったでしょう?」と聞かれたことがある。そのとき、監督は試合中も、采配の合間に、ベンチからスタンド全体を見ているのだと知った。
試合前や、キャンプ地では、ファンから掛けられる声に気さくに手を振って答える親しみやすい監督だった。コロナ禍で入場に制限がかかった際には、ファンに会えないことを心から残念がっていた。取材のときには、こちらが要求しなくても必ずファンへのメッセージと感謝の言葉を語ってくれた。そんな監督だったからこそ、退任を惜しむファンの声が大きかったのだと思う。
山川の“大振り”を尊重「そういうバッターじゃない」
選手に対しても同様だ。選手を観察し、個性を見抜き、性格に合ったアドバイスを送った。
主砲の山川穂高に関しては、一貫して本人のスタイルを尊重した。大振りしても、三振しても「それが山川」と意に介さなかった。一度、「ランナーが三塁にいて犠牲フライでも1点入る場面で、フライを打ってくれないかなと考えたことはありますか?」と尋ねたことがあった。辻監督は即座に「いや、山川はそういう(ことを期待する)バッターじゃないからね」と答えた。選手をとことん信じる。そんな思いが垣間見えた。
ただし、放任していたわけではない。