プロ野球PRESSBACK NUMBER
「エラーをすると泣きそうな顔をしてるでしょう?」西武・辻監督が喜んだ“リーダー山川穂高”の成長…愛された指揮官が6年間で残したもの
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byKYODO
posted2022/10/11 06:00
今シーズン限りでの退任を発表した西武ライオンズ・辻発彦監督。ファンにも気さくに手を振り返す、親しみやすい指揮官だった
辻監督就任1年目、17年の山川は、追い込まれたカウントからの空振り三振が多かった。「次につなぐ意識を持ってほしい」と考えた辻監督は山川にファーム行きを命じる。
「次の打者につなごうという気持ちがなければオマエを試合で起用しない」
追い込まれるとつい振ってしまう意識を変えるよう、本人に告げた。その言葉を受け、山川は奮起。18年、47本のホームランを放ち自身初の本塁打王に輝く。
当時、辻監督が最も評価したのは山川のフォアボールの数だった。「チームトップの88個のフォアボールを選んで塁に出てくれたことがうれしいねえ。次の打者につなごうという意識の表れだから」と笑顔で語っていたことを思い出す。
「山川は感情が表に出やすい選手。エラーをすると泣きそうな顔をしてるでしょう? プレーの一つひとつに一喜一憂しないほうがプロらしいという人もいますけど、私は喜怒哀楽が出るのが山川の長所だと思っています。ホームランを打って満面の笑みで帰ってくる、彼の明るさに何度もチームが救われました」
18年、勝った日も、負けた日も、体調がすぐれない日も、すべてのホームゲームの試合の後、山川が室内練習場に向かってバットを振っていたことを辻監督は知っていた。だから「そんなに努力している選手を責められるか」と、好機に凡退した山川をかばうこともあった。
その姿勢は、山川が2割台前半の打率で終えた20、21年シーズンも変わらなかった。
そして22年、山川は3年ぶりに40本以上の本塁打を記録し、プロ通算200号本塁打という記録を日本人最速で樹立した。
「精神的にも変わったように見えますね」
「これまでは調子が悪くなるとある程度長い期間、打てなくなる傾向が強かったけれど、今年に関しては2~3日ですぐに修正してきました。そこも成長したところですよね。ミスをしても、次のバッターに『行け~』と大きな声で声をかけている。自分が打てなくてもベンチのいちばん前で大きな声を出していますし、精神的にも変わったように見えますね」
主砲の、心技ともに成長した姿に言及していた。山川は今シーズン、最多本塁打と同時に最多打点のタイトルも受賞。クライマックスシリーズ・ファーストステージで敗退はしたが、チームリーダーとしても成長を遂げた山川の姿を見て、辻監督はほっと安堵しているのではないだろうか。