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「パッキャオは奇跡の増量に成功した…」凄腕ボクシングカメラマンが激写した“覚醒の瞬間”と、あのメイウェザー戦前の「異様な数日間」
posted2022/09/04 11:02
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph by
Naoki Fukuda
マニー・パッキャオの伝説的なキャリア、数えきれないほどの快挙のおかげで、我々のボクシング観が大きく変わってしまったのは間違いない。フライ級で最初の世界王座を獲得した後、実に9階級分の増量を果たし、その間にメジャータイトルの6階級を制覇。米国の老舗専門誌「リングマガジン」のベルトを含めると、実質8階級を制圧したことにもなる。体重制競技の常識を次々と覆し、クラスを上げるたびに強く、上手くなっていく姿は現実離れしすぎていて、常に見る側の理解を超えた次元にあった。
本来はアウェイであるはずの米国のファンを、身長166cmのアジア人サウスポーが魅了し、同時に世界を震撼させていったという点でも、彼の活躍は痛快なものといえたはずだ。
相手を飲み込む“パックマン”の超攻撃的なボクシング
私自身が撮影したパッキャオのファイトは合計24試合。ブレイク直前のスーパーバンタム級時代から撮り始めたが、その時点ですでに主武器である左ストレートの破壊力は軽量級の中で抜きん出ていた。
第一の衝撃は2003年11月、テキサス州サンアントニオで行われたフェザー級戦だった。当時、同級最強とされていたメキシコのスター、マルコ・アントニオ・バレラとのカードは当然のようにバレラ有利と予想されていた。だが、超攻撃型ボクシングを貫いたパッキャオが3回と11回にダウンを奪って、まさかの11回TKO勝ちを収めてみせたのだ。コンビネーションがとにかく高速で、左右の強打の思い切りがいい。メキシカン応援団のど真ん中で撮影していたので、序盤は周りの様子が気になったが、途中からそんなことも忘れて熱戦にのめり込んだのを覚えている。
勢い任せの番狂わせとも評されたが、それがまったくの思い違いだったのは言うまでもない。バレラ戦の6カ月後にラスベガスで行われたWBAスーパー・IBFフェザー級王者ファン・マヌエル・マルケスとのタイトルマッチで、パッキャオの神がかり的な力はさらに疑いようのないものとなる。結果はドローになったが、初回、あの名手マルケスからいきなり3度のダウンを奪い、MGMグランドガーデンを総立ちにさせてしまった。