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「パッキャオは奇跡の増量に成功した…」凄腕ボクシングカメラマンが激写した“覚醒の瞬間”と、あのメイウェザー戦前の「異様な数日間」
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2022/09/04 11:02
常識破りの増量でボクシング界を席巻したマニー・パッキャオ。ブレイク前から“パックマン”を撮り続けた福田直樹氏が語る覚醒の瞬間とは
最初は偶然かと思っていたが、毎回そうなので意識して目線をくれているに違いない。4、6回戦を含めてスタンドのカメラ群に気を遣うような選手は、後に先にもパッキャオだけだった。強いだけではなく、気配りや視野の広さの面でもまさに超一流なのだろう。2010年に母国フィリピンの下院議員となり、後に上院議員も務め、大統領選に出馬するほどの尊敬を地元の人たちから受けているが、それも頷けるところだ。
メイウェザーとの「世紀の一戦」前夜の熱狂とは
ウェルター級付近のスター狩りが一段落した2012年12月、宿敵マルケスとの第4戦であまりにもショッキングなワンパンチ6回KO負けを喫し、その活躍ももう終わりかと危惧されたが、曲者のティモシー・ブラッドリーに借りを返して戦線に復活。そして、2015年5月に開催されたフロイド・メイウェザーとの「世紀の一戦」が、最終章のハイライトとなる。
史上最大のメガマッチと謳われたウェルター級統一戦は、かつて立ち会った記憶がない規模のお祭り騒ぎにエスカレートしていた。両者の現地入り、計量などの公式行事を含めて、ラスべガスの街全体がまるでボクシングのテーマパークになったかのような異様な数日間だった。
試合は高度な技術戦となり、テクニックに勝るメイウェザーの判定勝ちに終わったが、パッキャオも4回に左でメイウェザーをぐらつかせるなど随所で“らしさ”を見せてくれた。この試合で1億5000万ドルもの報酬を得られたことも、パッキャオのレジェンドの証となったのではなかろうか。
その一大イベントの後、右肩の手術でブランクを作ってからは、さすがのパッキャオも徐々にフェードアウトしていった感がある。ただ、それでもルーカス・マティセ、エイドリアン・ブローナー、キース・サーマンといったばりばりの一線級を破るだけの神通力を残していたのは本当に凄い話だ。私は2016年に日本へ拠点を移したので、そのあたりの試合は中継で見ただけだが、引き際の直前までトップレベルの力を保っていたのも、彼ならではの息の長さといえた。
2021年8月、WBAウェルター級王座統一戦でヨルデニス・ウガスに判定負けして、ついに42歳で正式に引退を発表したが、威厳は最後まで保たれていた。敵がどんどん強くなり、主役がその度に覚醒していく巨編シリーズさながらの、作り話のようなリングキャリアだった。
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