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「パッキャオは奇跡の増量に成功した…」凄腕ボクシングカメラマンが激写した“覚醒の瞬間”と、あのメイウェザー戦前の「異様な数日間」
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2022/09/04 11:02
常識破りの増量でボクシング界を席巻したマニー・パッキャオ。ブレイク前から“パックマン”を撮り続けた福田直樹氏が語る覚醒の瞬間とは
そして、そこからバレラ、マルケスにエリック・モラレスを加えた”メキシコ三羽烏”との死闘シリーズが続いていく。バレラには2戦2勝、モラレスには3戦2勝、キャリア後半まで因縁を引きずり、最終的に4度戦うマルケスとは、この時点で2戦1勝1分。メキシカン・キラーとして初めの頃は敵役だったが、パッキャオのスリル満点のファイトにメキシカンたちも引き寄せられたのか、一戦ごとに会場内のファンが増していくのがよく分かった。飽くなき闘争心とともに相手を飲み込むスタイルは、ニックネームの”パックマン”そのもので、迷いのない攻めが最大の防御になっていた。
とくに圧巻だったのは2006年11月、ラスベガスで開催されたモラレスとの第3戦で、ワンサイドの猛攻を披露しての3回KO勝ち。歴戦の強者モラレスがロープ下に座り込み、諦めの表情のままカウントを聞くシーンの一枚は自分にとっても忘れ難いものとなった。
非公開スパーで目の色を変えたパッキャオ
このあたりからロサンゼルスやラスベガスでパッキャオのジムワークを撮影する機会も増えてきたが、印象に残るのはやはりトレーナーのフレディ・ローチとのミット打ちである。キャリア後半のキーパンチとなるコンパクトな右フックや掬い上げるような左、それを交えた4連打、5連打は相手からは見にくい独特のアングルと回転力を持っていた。そのコンビネーションはフットワークの目まぐるしさも手伝って、誰も対処できない必殺のパターンとなっていった。
非公開で行われながら、特別に撮影を許された後の3階級王者、ホルヘ・リナレスとのスパーリングも非常に刺激が強かった。緊迫感溢れる両雄の駆け引きだけでも、十分すぎる見応えがあったと思う。スパー自体はリナレスが距離を保ち、ややペースを握っていたが、そのせいか約束の2ラウンドが終了した時にパッキャオが目の色を変えて、追加のラウンドを要求。彼を支え続けてきたハングリー精神とプライドの高さを、リアルな眼光から垣間見ることもできた。
その後、バレラ、マルケスとの再戦を経て、いよいよキャリアのピークを迎えたかに感じられたが、驚くことにパッキャオが真のレジェンドになっていくのはここからなのだ。