マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「スカウトがそこまでするんですか?」オリックスのスカウトに聞いて驚いた“意外な仕事”「プロ野球に“入れてやる”なんて時代ではない」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byGetty Images
posted2022/08/15 17:00
この夏、筆者はオリックス・バファローズの牧田勝吾スカウトに行く先々で“偶然”出会う。そんな牧田スカウトが明かした“意外な仕事”とは?
「はい、渡部君の様子をお話しさせていただきました」
昨秋、2021年ドラフトのオリックス4位・渡部遼人は、慶應義塾大でセンターを守っていた快足とスーパー守備力の外野手だ。
「よく頑張ってくれてるんです。オープン戦、ずっとレギュラーで通して、公式戦が始まっても、最初は一軍に食らいついてましたから。今はファームですけど、快足と広い守備範囲、シュアなバッティング……ウチにいないタイプの外野手ですし、実戦力が高い。絶対出てきてくれると思います」
今年の慶應義塾大にも、大学ジャパンに選ばれた萩尾匡也外野手(180cm84kg・右投右打・熊本文徳高)をはじめ、主将の下山悠介内野手(176cm81kg・右投左打・慶應高)、エース格の橋本達弥投手(182cm86kg・右投右打・兵庫長田高)など、ドラフト候補は何人もいるのに、彼らのプレーに目を凝らす前に、まず渡部選手の近況報告を優先させた。
「選手の能力を見抜けるスカウトは、ウチには何人もいますから、僕は暇なんです。だから、こういうことができるんで」
謙遜だろうが、「閑職」どころか、仕事の大切さでいえば、立派に「要職」であろう。
「ここ10年ぐらいで、野球界はプロとアマが近くなりました。元プロがアマチュアの指導者になって、甲子園にも何人も出て来てます。大学野球でも、元プロの指導を受けた選手が、やっぱり何人もプロに進んでいます。人の交流だけじゃなく、この前(8月1日)みたいな、プロ・アマ交流戦も行われるようになりました。プロとアマはお互いの発展のために、もっと近くなっていい、もっと近くなれると、私は思ってるんです。そのためには、アマチュア球界とじかに接しているスカウトが、まず距離を縮めていくっていうのも、一つの方法かなって考えたものですから」
「もし、やめられないのなら、スカウトを辞めろ」
我こそは、プロ球界からの使者なり。そんな上からの姿勢は、あまりかっこよく見えない時代になってきているのかもしれない。
「入れてやる……っていう上・下の感覚より、同じ野球に懸命に取り組んでいる“お隣さん”っていう感覚で、プロ側から近づいていっても」
電話やメールで、担当した選手の近況を指導者や家族に伝えているスカウトは少なくない。ならば自分はこちらから出かけて行って、対面で話を聞いてもらえば、「なんとか育てて一人前になってもらいたい」……そんな球団全体の思いも伝えられるのでは。