マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「スカウトがそこまでするんですか?」オリックスのスカウトに聞いて驚いた“意外な仕事”「プロ野球に“入れてやる”なんて時代ではない」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byGetty Images
posted2022/08/15 17:00
この夏、筆者はオリックス・バファローズの牧田勝吾スカウトに行く先々で“偶然”出会う。そんな牧田スカウトが明かした“意外な仕事”とは?
仙台大学……正確にいえば、野球部・森本吉謙監督の研究室である。
こちらの用事が終わって、「下に牧田さんが着いたみたいなので」と言われたところで研究室のドアが開いて、お互い顔を見合わせて「エエーッ!」と、そのあとは言葉もなかった。
「あれは、宇田川のことで伺ったんです」
それから1週間ほど経って、今度は、高校野球の甲子園球場での立ち話となった。
「仙台大学から育成ドラフトで来てもらった宇田川(優希)が、おかげさまで支配下選手に昇格して、ちょうど一軍で投げるタイミングだったので、ご挨拶と最近の様子のご報告に……」
スカウトの方が、そんなことまでなさるんですか。思ったことが、つい、口を突いて出てしまった。
「はい。これからのスカウト活動はそういうことが大切だと、勝手に思ってまして……」
照れくさそうな様子のわりに、口調は決然としていた。
「たぶん、電話でも済んだんだと思います」
「特に宇田川の場合は、事前に育成指名はダメだよ……っていう中での育成指名でしたから」
指名された選手たちのほとんどが歓迎ムードの中で、仙台大・宇田川投手交渉難航の報は、スポーツ紙でも伝えられていた。
「ドラフトの翌日にすぐ大学に伺って、理事長にお詫びをして。その時に、次は宇田川君が一軍に上がった時にご挨拶に伺いますとお話ししていたものですから……嬉しいご挨拶ができて、ほんとによかったと思います」
西武戦にリリーフで一軍初登板を果たした宇田川投手は、持ち前の馬力あふれる投球で、その最強の武器である剛速球は157キロをマーク。山川穂高見送り三振、中村剛也センターフライ、オグレディ空振りの三振……怖い、怖い4番~6番を抑えて、一軍定着への足がかりをつかんだ。
「たぶん、電話でも済んだんだと思います。でもそれは、スカウトなら誰でもやっていることです。ならば、人のやっていない方法で、と思ったのが一つ。もう一つは、自分がもし選手を送り出した側のアマチュア野球の人間だったとしたら、わざわざ足を運んでくれて、相手の顔の見える場所で、選手の“今”を教えてもらったら、こんなに嬉しいことはないな……と思ったからです。選手を送り出した指導者の方たちって、内心ものすごく心配しておられます。直接、面会して様子を教えてもらえたら、こんなに安心なこともない。そういう部分から、オリックスという球団を差別化してもらえたら……それも考えました」
「ここ10年で、野球界はプロとアマが近くなりました」
ということは、慶大グラウンドで堀井監督と話し込んでいたのも……。