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プロ野球スカウト「ドラフト1位重複も十分ある」現地で聞いた浅野翔吾(高松商)の評価「牧(DeNA)タイプだけど、足は浅野のほうが速い」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2022/08/14 17:03
佐久長聖戦の7回表、2打席連続の本塁打を放ち、ガッツポーズの高松商・浅野翔吾。一気に注目が集まったが、プロ野球スカウトの評価は?
「能力はわかってます。今日のピッチャーだったら、あのぐらい打ちますよ。浅野の場合は、ホームラン2本がすごいんじゃなくて、地元でやってる練習試合と同じことを、この甲子園のひのき舞台で、当たり前みたいにやってのけてしまう勝負度胸ですよ。私たち、そういうとこしか見てないです、夏の甲子園では」
自信を持って推せる1位候補が極めて少ない今年のドラフトなら、走れて守れる野手だけに「1位重複も十分あり得る」と、そのスカウトは解説してくれた。
キャッチャー目線では「小さな打者のほうがイヤ」
170cm86kg…小柄なことを心配する声もあるが、168cmのメジャーリーガー・アルトゥーベ(アストロズ)の例を挙げるまでもなく、日本ハム・近藤健介(171cm86kg)、楽天・茂木栄五郎(171cm75kg)、阪神・近本光司(171cm71kg)に、広島・菊池涼介(171cm71kg)、田中広輔(171cm84kg)の二遊間。似たサイズで、プロの大看板に台頭して奮戦する先輩たちは何人もいる。
むしろ、キャッチャー目線でいえば、同じ実力なら、小さな打者のほうがイヤなものだ。ストライクゾーンが狭くなって、カウントを悪くしたくないから、ついボールが甘くなって、ガッツーン!
この日の2弾だって、そんなハンデが投手側にあり、浅野側に逆のアドバンテージがあったと言えなくもない。打者の場合、「小柄」は武器にもできるのだ。
昨夏の智弁和歌山戦、浅野の雄大な放物線には、大阪桐蔭高当時の平田良介外野手(現・中日)が重なったが、この日の「右中間」には、ソフトバンク・野村大樹の高校時代を思い出した。早稲田実業高で1年上の清宮幸太郎(現・日本ハム)とクリーンアップを打っていた頃、神宮球場の右中間中段にライナー性の打球で軽々と持っていったあの弾道がよみがえった。
しかし、脚力は野村選手より2ランク上(失礼!)、プロでも間違いなく上位の猛肩も兼ね備えて、総合力では凌駕していると見る。
「あの身体能力なら、セカンドはどうなんだろう…」
ショート正面のゴロで三塁に突進して刺されたプレーを「ムチャ」と評する人もいたが、足に当たりそうになった打球を避けるのに軽くジャンプしたタイムロスがなければ、タイミングは「セーフ」。抜群の野球カンだと、私は評したい。
この大会6日目まで、見る者をビックリさせてくれる野手(打者)が出てこなかったから、余計「衝撃」が大きかったのでは……そんなアドバンテージが作用して、原寸大以上に見えたんじゃないか?の「疑念」は、何度考えてみても湧いてこない。素直に驚きたい。
この日の2弾で、浅野翔吾、高校通算66本塁打だという。66本全部見たわけじゃないが、66本のおそらく半分以上は、彼の卓越した「技術」で打った本塁打だったはずだ。
記事前半で詳細に描写したこの日の「打ちっぷり」を見れば、明らかであろう。
この先の楽しみは、プロで彼がどのポジションを守るのか。猛肩、快足、無類の野球上手……外野手なら球史に残るような選手になるだろうし、あの身体能力なら、セカンドはどうなんだろう。
そうなると、まさにホセ・アルトゥーベ。妄想はどんどん広がって尽きない。
甲子園から帰ったこの秋、遊びたいだろうが、そこをグッと辛抱。さらにグラウンドで鍛え込んで野球の精度を上げ、高校生でも「即戦力」です!と、胸を張って、プロに飛び込んでいけばよい。