甲子園の風BACK NUMBER
「なんで気づいたんですか」巨人スカウトを驚愕させた“坂本勇人の情報”、後悔する菊池雄星への発言…NHK甲子園・人気解説者が語る“忘れられない試合”
posted2022/08/15 17:01
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph by
BUNGEISHUNJU
他球団が見落としていた坂本勇人の潜在能力を悟っていた巨人の大森剛スカウトは、慶應大学の先輩・杉本真吾氏の一言に顔を青ざめた――。
今年も夏の甲子園で熱戦が繰り広げられている。NHKの高校野球解説16年目を迎えた杉本氏に『思い出の試合』を聞くと、「坂本勇人の衝撃ファウル」「馬淵監督との敬遠に対する見解の相違」「野球観を変えた菊池雄星の全力疾走」など意外な場面が飛び出した。
※名前や肩書きは当時。現役選手はカッコ内に所属球団を記載。
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「衝撃でしたよ」
米子東の監督を経て、2006(平成18)年のセンバツから本格的にNHKで甲子園の解説を始めた杉本氏は大会1回戦、光星学院の坂本勇人(巨人)のバックネット直撃のファウルに度肝を抜かれた。
「次の試合の解説だったので、放送席の前で光星学院対関西を観ていました。そしたら、関西のダース(・ローマシュ匡)投手の直球を、坂本選手が鋭いスイングでバックネットに突き刺さるようなファウルを打った。ものすごい打球で、衝撃を受けました。慌てて、高校野球の雑誌を見たら『青森県ナンバー1ショート』と書いてあった。でも、この選手は『高校球界ナンバー1ショート』だと思ったんですよね」
「……杉本さん、なんで気づいたんですか」
慶應大学出身の杉本氏は、1期下で巨人のスカウトである大森剛に衝撃を伝えた。
「大会期間中、大森と飲んだ時に『俺の目が間違っているかもしれないけど、光星学院の坂本って“高校球界ナンバー1ショート”じゃないか?』と聞いたんですよ。そしたら、『……杉本さん、なんで気づいたんですか』と大森の顔が青ざめた。毎年、センバツの1回戦が終わった後に12球団のスカウトが集まって懇親会をするらしいんですよ。その会で、幸いにも坂本の名前が出なかったんですって。大森は他球団に知られたくないから、夏に出場しないでほしいと思ったそうです。山下哲治スカウト部長に映像を見せたら、『すごい選手見つけたな』と褒められたと言っていました」
夏の青森大会決勝で、光星学院は青森山田に4対5で敗れ、坂本は甲子園に進めなかった。大森は9月の高校生ドラフトで坂本を1位に推すも、巨人は愛工大名電の堂上直倫を指名。3球団競合の末、中日が交渉権を獲得したため、外れ1位で坂本を指名した。2年目でレギュラーを奪った坂本は一昨年、榎本喜八に次ぐ史上2番目のスピードで2000本安打を達成。5度のゴールデングラブ賞に輝く“球界ナンバー1ショート”に成長した。