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村上宗隆22歳が「必然のホームランバッター」であるワケ。松井秀喜にもなかった特別な能力とは? 《世界新の5連発を検証!》
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO/BUNGEISHUNJU
posted2022/08/04 11:01
史上初の5打席連続本塁打を放ったヤクルト村上宗隆(左)と巨人時代の松井秀喜(右)
移籍1年目にその圧倒的なパワーと同時に、苦労したのが日本では見たことがないような手元で動くボールだったのである。
手元で動くボールに対応するために、どれだけ呼び込んで最後の変化まで見切ってボールを叩けるか。必然的にポイントは近くなるが、多少詰まってもしっかりと後ろの手で押し込む技術とパワーが必要になってくる。それができることがメジャーで真のホームランバッターとなるための条件だ、と松井さんは考えたわけである。
それは高校を卒業してプロ野球選手として歩み出して、11年目のオフのことだった。
しかし松井さんがメジャーで感じた野球の違いは、やがて日本をも席巻する。松井さんやシアトル・マリナーズのイチローさんの活躍で日本人メジャーリーガーが続々と誕生し、一方で2006年に第1回大会が開かれたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の影響などもあって、“動くボール”は瞬く間に日本の投手にも普及してきた。
今はカットボールやツーシームは高校野球でも当たり前に使われる球種となり、バッターもそれに自然と対応するようになった。
村上は「逆方向にガンガン打っていた」
村上の九州学院高校時代の話をスカウトに聞くと、一様に出てくるのが「逆方向にガンガンホームランを打っていた」という話である。これは松井さんのときには、一切、出てこなかった。松井さんの場合は「とにかく飛ぶ」「飛距離が凄い」とそういう話ばかりだったのとは対照的である。
5打席連続本塁打の打球方向は、7月31日の阪神戦から左、右、左、そして2日の中日戦では右、左と見事に打ち分けている。
もちろんどの本塁打にも村上のバッティングの凄さが見られるのだが、特にその中で真骨頂と感じるのは阪神戦の1本目だったのではないだろうか。カウント1ボール2ストライクから阪神の変則左腕・渡邉雄大投手が投じた外角高めのスライダーだった。