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「カウンターが答えではない」日本代表を観察し続けたトルシエが授けるカタールW杯ベスト8への秘策とは
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/08/03 11:03
ブラジル戦の日本代表の戦いを見届け、トルシエは「方向性を変える必要はない」と断言した
「その通りだ。選手は常に100%を強いられるからミスは必然的に起こる。ネイマールやパケタがどうやってボールを受けていたかを見ればいい。彼らは余裕を持ってボールをキープしていたのに対し、日本は常に同じ方向にばかりボールを運ぼうとした。攻撃を準備する余裕がなく、人数も足りなかった。
他にも指摘すべきことはある。前半の日本には2度の得点機があった。最初のフリーキックをヘディングで外したものともうひとつ。ディテールではあるが、日本が得点していてもおかしくはなかった。効率の問題がそこにはある。得点を決められるフィニッシャー、ゴールをこじ開けられるアタッカーが日本にはいない。最初のFKでは、ヘディングはゴールから逸れた。ブラジルだったら枠内に打っていただろう。
いずれにせよ今後に向けてとても興味深い試合だった。
02年と22年の監督の役割の違い
今日のチームも、本当の意味でのリーダーは選手のクオリティだ。ピッチの上でクオリティを実現する選手たちだ。森保は彼らの同伴者であり、彼は選手たちとともにある。彼が抱えているのは、より成熟し経験を積んだ選手であるからだ。森保と私とでは果たすべき役割も異なる。
今の選手たちにはリーダーがいる。例えば吉田や長友、川島らがそうだ。私の時代には30歳を超えたスタメンの選手はおらず、若い選手ばかりだった。だが長友も吉田も30歳を超えている。吉田は何歳だ?」
――33歳です。
「今のチームには彼のような成熟した選手がいる。私の選手は20~23歳が多く、軒並み20代の前半だった。中山と秋田はいたが、彼らはほぼプレーしなかった。
だからもし今、当時のチームでトルコと再び戦うとしたら、もちろん異なるマネジメントで試合に臨む。同じマネジメントをおこなうのであれば、指揮するのは2002年のチームではなく今の日本代表だ。選手が自分たちの責任を引き受けられるからだ。
2002年の選手はそうではなかった。彼らにはそこまでの経験はなかった。そこが大きな違いで、今の選手たちには経験があり責任感もある。自ら責任を引き受け、コンプレックスも感じてはいない。スター選手はいないが、チームをまとめるリーダーはいる。吉田も川島も性格的には大人しいが、グループをまとめる力は持っている。それが最も重要なことだ。というのもリーダーとはチームをまとめる存在であるからだ。分裂させては役割は務まらない。このチームの力のひとつがその一体感であり連帯感だ。経験豊かな吉田や川島、長友はそのために不可欠な存在だ。とてもよくバランスが取れている」