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木村沙織はバレーボールと距離を置いていた?「全然そんなことない。でも…」“待望”の荒木絵里香との解説は「大迷惑をかけた(笑)」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byShigeki Yamamoto
posted2022/07/25 11:01
眞鍋政義監督の復帰をニュースで知ったという木村沙織。「主役は選手」と、陰ながらサポートしたいと笑顔でエールを送った
勝っても負けても、どんなに調子が悪くても自分ばかりが注目される。それでも選手である以上、自分を通してバレーボールが注目されるならば、と割り切る気持ちもあった。
でも、誰がどう見ても活躍して、勝利に貢献した選手が別にいるのに、翌日の新聞やテレビのニュース番組で「木村沙織、大活躍」と取り上げられることに違和感しかなかった。
「バレーボールって、得点を決めた人が目立つけど、でも『これ、誰の手?』みたいなところでブロックされたボールをフォローしてくれた人とか、乱れたボールを打てるように上げてくれた人とか、そういう1本1本、1つ1つのプレーがあって、初めて得点になる。今日の試合で大事な場面はここで、この選手の1本、このプレーがあったから勝てたよね、というのは選手みんながわかっているのに、そこでも木村沙織が活躍した、とか言われると違うよなぁって。“そうじゃない”って言いたいことが何度もありました」
アントラージュ就任には、戸惑いもある
現役を引退しても変わらないスタンスの中、突如舞い込んだ“アントラージュ”としての活動。フランス語で「取り巻き」という意味を持つ「アントラージュ」は、JOCのホームページでも、競技環境を整備し、アスリートがパフォーマンスを最大限発揮できるように連携協力する関係者のことを定義している、とある。
銅メダルを獲得したロンドン五輪、さらにはそこへ向かう経験を今の選手たちにダイレクトに伝えてほしいという眞鍋の気持ちもわかるのだが、「自分たちが今出ていっていいのか」と抱くのは迷いばかりだった。
しかし、ネーションズリーグ前に薩摩川内で行われた合宿に竹下佳江、佐野優子、中道瞳、迫田さおりといった面々が参加する姿を目にした。かしこまるのではなく、ごく自然に溶け込む雰囲気の良さは画面からも伝わった。その成果、と言うには大げさかもしれないが、直後に開幕したネーションズリーグでの8連勝に少なからず影響したのかもしれない。
「アントラージュばかり注目されるのはちょっと違うなと思っていたけれど、そんなこと忘れちゃうぐらいチームが絶好調で、むしろアントラージュは必要ないんじゃないか、と思ったぐらい(笑)。パリで目指す色は、きっとロンドンとは違う、もっといい色だと思う。だからパリで金メダルを獲ってほしいし、そのために応援するし、前に出るのはアントラージュじゃなくて、今を戦う選手たち。これからがすごく楽しみですよね」
表に出ることは、今でも好まない。意図的にバレーボールから離れているのではないか、と言われることもあったが、本人に言わせれば「全然そんなことはない」と一笑する。
「バレーボールは好き。大好き。でも、もう引退した身ですから。スポーツ選手って、試合をしている時だけで、私はその舞台から降りた身だからもうスポーツ選手でもアスリートでもない。そういう経験をした過去の人、っていう感じです」