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木村沙織はバレーボールと距離を置いていた?「全然そんなことない。でも…」“待望”の荒木絵里香との解説は「大迷惑をかけた(笑)」
posted2022/07/25 11:01
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Shigeki Yamamoto
眞鍋政義とはどんな人か。
28年ぶりの銅メダル獲得に導いた名将。iPadを片手にコートサイドに立つ策士。はたまた究極の人たらし。世間が抱くイメージと重ね合わせながら、木村沙織は視線を上にして「うーん」と10秒ほど考えた。
結果、たどり着いた答えは何か。
「直感力のある人、かな。選手時代の経験も含めて、いろんな試合やデータを見ている人じゃないですか。でも、あくまで私の考えですけど、スポーツってその時、その時で直感を大事にしたい時があって、私自身、試合の生感というか、ライブ感というか、その時パッとわいてくるイメージや直感を大事にしたいタイプなんです。そういう部分をすごく大事にしてくれたのが眞鍋さん。データはあるけれど、でも大事なところは自由にさせてくれる。そういう人でしたね」
たとえば、と紐解く記憶。
国際試合の大半が連戦で、メダル争いを繰り広げる上位国とは練習試合や親善試合を含め何度も数えきれないほどに対戦している。
当然ながら互いのデータや傾向を知り尽くして臨む。この場面で、この選手はクロス方向へ打つことが多い、とデータに表れていればブロッカーに与えられる指示は「クロスを締めろ」。事前の対策としては当然なのだが、ネットを挟んで対峙する選手には、試合中、そこにリアルタイムの情報が加わる。
パスがセッターに返る位置や返球の質、アタッカーの動作や表情。そこで得られる直感から「どう打って出るか」を考えること自体が、木村は何より楽しかった。
眞鍋監督が信頼した木村沙織の“直感”
「目の前の人を見て、データ上ではクロスでも『絶対にストレートへ打つとしか思えない』時があるんです。そういう時、普通に考えたらデータ上ではクロスなんだからクロスに跳べ、と監督は言いますよね。眞鍋さんも基本はそうだと思うんですけど、私は絶対ストレートだと思っているし、何より言われた通りに跳んでやっぱりストレートに打たれて決められた、となるのが一番悔しい。
だから後ろの(レシーブに入る)選手には『ベンチからはクロスって言われているけれど、ストレートに跳ぶので、もしこっちに行ったらすみません、レシーブお願いします』と伝えて、ストレートを締めていました」
組織で戦う以上、勝手な自己判断は時にマイナスとなるが、眞鍋も木村の“直感”を尊重した。だからあえて、木村も眞鍋にアピールしたと笑う。
「本当にストレートへ打ってきたスパイクを止めた時は、ベンチにいる眞鍋さんのほうを見て、小さくガッツポーズしながら『っしゃ』みたいな顔をすると、眞鍋さんも笑ってくれるんです。そういうやり取りをすごく楽しめる監督でしたね。組織として戦う最低限の決まり事はもちろんあるけれど、基本的には自由にさせてくれて、最終的に俺が責任を取るから好きにしろ、という懐の大きさがあった。
“直感力”とは少しズレちゃいましたけど、大事な感覚の部分が同じだったから、素直に疑問を抱くことなく聞き入れられたし、全部信用して、信頼できる人でした」