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“ポスト木村沙織”と呼ばれた古賀紗理那へ「本当に頼もしい。でも、驚きはないかな」キャプテンの重圧を知る元エースが期待する理由とは?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byShigeki Yamamoto
posted2022/07/25 11:00
銅メダルを獲得したロンドン五輪から10年、かつて自身も経験した“代表キャプテン”として奮闘する古賀紗理那へエールを送った木村沙織
「全然調子が上がらなかったんです。身体もキレがないし、重たい。でも中国戦は絶対に勝たなきゃいけない試合。ロンドンでメダルを獲るためにやってきたのに、みんなの足を引っ張るわけにいかない。私のスイッチ、どこにあるんだーって。もうお願いだからこの日だけは当たってくれ、とずっと神頼みしていました」
激闘。死闘。いまでも苦しさがよみがえるフルセットの攻防を振り返れば、思い出すのは33得点を叩き出したアウトサイドヒッターの木村と江畑幸子の活躍が色濃い。セッターの竹下佳江も後に「沙織とエバ(江畑)に上げれば決まる、という確信があった」と振り返ったほど。
勝負所では常に木村か江畑が決めきったのは、数字にも記憶にも残る事実なのだが、実は木村の内心は違った。
「私の前のブロッカーが最後までずーっと、ライン(ストレート側)を抑えていてくれて、それに助けられました。もしあそこでクロスを締められたら、決め球がなくなっていました」
クロス、ストレート、多彩なスパイクコースは木村の持ち味でもあるのだが、試合前の公式練習時からどうにもストレートの感覚が悪い。竹下のトスはいつも通り絶妙な高さと伸びがあって申し分ない。なのに打てない。確実に自分が原因だと思いながらもその理由がわからず、試合中に点差を見ながら「一度チャレンジしておこう」と打っても、ラインを割ってアウトになる。
「1点を争う試合では、1本のミスも許されない。この状態でストレートに打つのは怖すぎると思ったので、バックアタック以外はもう全部、クロス一本勝負。インナーと奥、どれだけクロスで行けるか、という感じでした。
もしもあの時、半歩でも(前にいる相手ブロッカーが)ずれていたら、(ブロッカーの)間も塞がれて抜けなくなるので、クロスに打ってもワンタッチを取られていたと思います。そこでエバみたいに吹っ飛ばすようなパワーが私にはない。あれだけ決まらなかったのに、最後までずっと、ストレート側を締めてくれて本当に救われました」
毎年8月のロンドン会「本当にいい仲間」
2時間13分に及ぶ、全セットすべて2点差という激闘を制した日本は準決勝進出を果たす。
準決勝でブラジルに敗れ、金メダルの目標は潰えたが、銅メダルマッチとなった韓国との3位決定戦はストレートで勝利し、28年ぶりの銅メダルを獲得した。
「改めて振り返ることはそんなにないですけど、コロナの前は毎年8月に“ロンドン会”として当時の選手やスタッフ、みんなで集まって『懐かしいね』と言いながら、映像を見返したり。何年経っても、本当にいい仲間、いいチームで、バレーをしていて楽しかったです」