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《F1》身の毛もよだつクラッシュから周冠宇を生還させた「HALO」とは? セナの死からの安全性の進化と事故の歴史 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byGetty Images

posted2022/07/21 17:00

《F1》身の毛もよだつクラッシュから周冠宇を生還させた「HALO」とは? セナの死からの安全性の進化と事故の歴史<Number Web> photograph by Getty Images

逆さまになったまま滑走するマシンのコクピットで、周冠宇はヘイローにしっかりと守られた

 それから3年後の18年、F1はついにヘイローを導入。賛否両論はあったものの、ヘイローは確実にドライバーたちの命を守り続けている。

 そのひとつが、20年のバーレーンGPだった。ハースのロマン・グロージャンがスタート直後に他車と接触しバリアに激突。グロージャンが乗っていたモノコックは鉄製のガードレールにめり込んだものの、ヘイローがグロージャンの頭部を守る形となり、グロージャンは自力で脱出。火傷以外、頭部に外傷を負うことはなかった。グロージャンは言う。

「何年か前、僕はヘイローに賛成していなかったが、いまはF1に導入された最高のデバイスだと断言できる。ヘイローがなければいまこうして話をすることもできなかったからね」

 ヘイローは21年にもドライバーを守った。イタリアGPでチャンピオンシップを争うハミルトンとマックス・フェルスタッペンが接触。フェルスタッペンのマシンがハミルトンのマシンに乗り上げ、フェルスタッペンのリアタイヤがハミルトンの頭部付近に落ちてきた。このとき、ハミルトンの頭部を保護したのがヘイローだった。

数々の事故から得た教訓

 ヘイローが導入されて5シーズン目、いまF1界でそれを批判する声はもう聞こえない。

 シルバーストンの事故から4日後、周はオーストリアGPに参加するためサーキットに元気な姿で帰ってきた。その傍には、周のマネージャーのグレアム・ロードンの姿があった。ロードンはビアンキが事故で命を落としたとき、マノーでスポーティングディレクターを務めていた人物で、いまもビアンキの家族と連絡を取り合っている。そのロードンは、こう語る。

「ヘイローがあってもジュールの命は救えなかったかもしれない。でも、あの事故によってヘイローの導入が促進されたことは間違いない」

 事故によって失われた命を取り戻すことはできない。しかし、失われた命を無駄にしなければ、あるいは痛ましい事故の教訓から何かを学び続ければ、残された尊い命を守ることは可能だ。

 周の事故でも安全面において新たな課題が見つかった。それとどう向き合い、対処していくのか。モータースポーツが発展し続けていくためには、安全性を追求し続けることも忘れてはならない。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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