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《F1》身の毛もよだつクラッシュから周冠宇を生還させた「HALO」とは? セナの死からの安全性の進化と事故の歴史
posted2022/07/21 17:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
歓声が突然、悲鳴に変わった。
今年7月3日にシルバーストン・サーキットで行われた第10戦イギリスGPの決勝レースは、スタート直後に複数台が絡む大クラッシュが発生。そのうちの1台、アルファロメオの周冠宇(ジョウ・グアンユー)のマシンは上下逆さまになったままグラベルを横切った後、宙を舞い、タイヤバリアを超えてキャッチフェンスに激突するという恐ろしいアクシデントに見舞われた。
キャッチフェンスに衝突したマシンは、フェンスとタイヤバリアの隙間に横向きのまま直立して止まった。周がコックピットに閉じ込められたまま、しばらく脱出できなかったため、サーキットに重苦しい雰囲気が漂う。
駆けつけたマーシャルによって数分後にコックピットから周が救出されると、スタンドから拍手が贈られた。救急車に乗せられた周は意識があったため、まずサーキット内のメディカルセンターでメディカルチェックを受け、幸いにも大きなケガはないことが判明。その後、サーキット近郊の病院へ向かい、予防的な検査を受けた後、退院した。
無傷の生還は奇跡ではない。レース後、周は無事だった最大の理由を「ヘイローに助けられた」と振り返った。ヘイローとは、ドライバーの頭部を保護するためのコックピット保護装置のことで、F1では2018年から導入された。英語で「後光のような丸い光の輪」を意味する「HALO」から名付けられたものだ。
F1界の意識を変えたアイルトン・セナの死亡事故
だが、ヘイローだけが周の命を守ったわけではない。現在のF1マシンとドライバーが装着しているレーシングギアには、安全性を向上させるさまざまな工夫が施されており、それらすべてが積み重なってドライバーたちを守っている。今回の事故が重大な結果に至らなかったのは単なる偶然ではなく、F1と国際自動車連盟(FIA)、そしてモータースポーツに携わる多くの人たちのたゆまぬ努力の賜物と言える。
F1が安全対策に大きく乗り出すきっかけとなったのは、1994年だった。ローランド・ラッツェンバーガーとアイルトン・セナが大クラッシュに見舞われ、その後、死亡するという痛ましい事故が起きたサンマリノGPの悲劇だ。