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「ヘルメットからタイヤに突っ込む形に…」中上貴晶30歳が引き起こした多重クラッシュの真相と、来季MotoGPクラスの“アジア枠1”獲得の行方
posted2022/06/10 11:00
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
6月上旬、スペインのバルセロナで開催された第9戦カタルーニャGPのMotoGPクラスの決勝レースで、12番グリッド、4列目から好スタートを切った中上貴晶が1コーナーで転倒した。その転倒で中上は、前を走る予選2番手のフランチェスコ・バニャイアの後輪にヘルメットから接触し、その衝撃でバニャイアが転倒。そのマシンがアレックス・リンスのマシンに当たり、リンスも宙を舞う形で転倒する多重クラッシュとなって、大きなニュースになった。
バニャイアに怪我はなかったが、リンスは左手首を骨折。転倒後、グラベルまで激しく転がった中上は、サーキット内の医務室に運ばれた後、市内の病院に搬送された。
チームからのリリースでは中上が病院に運ばれたことが報告されたが、本人のコメントはなく、転倒の状況など詳しいことは何もわからなかった。そこで僕は中上に「怪我の具合はどう? もし、連絡できるならメッセージか電話が欲しい」とメッセージを送ると、本人から電話があり、詳しい話を聞くことができた。
「病院に運ばれ精密検査を受けてから24時間は集中治療室に入れられた。月曜日の夜に一般病棟に移され、そのまま入院している。全身の精密検査では、骨折はないようだが、右肩にかなり痛みがあり、ちょっと心配。転倒したときにヘルメットからバニャイアのタイヤに突っ込む形になり、顎のあたりがすごく腫れている。バイザーが取れてしまい、グラベルの砂利が当たり顔がすごく腫れ上がっている。まるで試合終了後のボクサーのような顔になっている」
あの瞬間、コース上で起こっていたこと
そして転倒に対し非難が集中していることをSNSなどで知った中上は、こう語ってくれた。
「無謀な走りだったとかブレーキングが遅れたからだといろいろ言われているが、そんなことはなかった。ブレーキを掛けたのは前にいたバニャイア、隣りにいたポル(・エスパルガロ)と同じタイミングだったし、ブレーキが遅れたということはない。ただ、(ブレーキをリリースし始めたときに)バニャイアのスリップにひっぱられてぶつかりそうになり、フロントから転んだ。最終的に自分のミスだったことは間違いないが、無謀なブレーキングではなかった」
火曜に退院した中上はSNSに病室のベッドに横たわる自身の写真をアップ、転倒で巻き添えにしたバニャイアとリンスに謝罪した。その事故の瞬間をとらえた映像はあまりにも衝撃的だが、写真の腫れ上がった顔は試合を終えたボクサーと表現したとおりで、事故の衝撃の大きさを物語るものだった。