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佐々木朗希20歳はどんな高校生だった? 野球部同級生3人が明かす“素顔”「朗希は打つ方でもスゴかった」「あの日、グループLINEが大騒ぎに」
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph bySankei Shimbun
posted2022/06/05 17:04
2019年7月25日、岩手県大会決勝で花巻東に2-12で敗れ、大船渡高・佐々木朗希の“最後の夏”は終わった。前日に129球を投げていた佐々木はこの日出場しなかった
「朗希は投げるだけでなく打つ方でもすごかったので、チームメイトにアドバイスできる立場にいました。でも、アドバイスしてもいいのかな? 伝えるならどう伝えればいいのか、それともそもそも伝えないほうがいいのか、ものすごく他人のことを考えているんです」
千葉も一度、佐々木からバッティングについてアドバイスされたことがある。
「ぼくは引っ張りが得意じゃなくて、基本流すバッティングなんです。エンドランはなおさらで、引っ張ると強い打球がショートに飛んで併殺になる可能性がある。ですから右方向を意識して打つわけですが、あるとき朗希がぽつりと言ったんですよ。“引っ張ったほうがいいんじゃない?”って」
なぜ引っ張ればいいと思ったのか、その理由は聞いていない。だが、このときも控えめな口調だった。実力を考えれば、ズケズケ言っていいはずなのに。おそらく佐々木は、このひと言も熟慮の末に口にしたのだ。
チームに突出した実力の持ち主がいれば、周りとの衝突や軋轢が生まれても不思議ではない。なにしろ、彼らは高校生なのだ。
だが、同期の部員たちは「揉めごとみたいなものは、まったくなかった」と口をそろえる。それは佐々木が実力を鼻にかけることがなく、その言動にチームと仲間のことを考える姿勢がにじみ出ていたからだ。
“ああ、おまえなのか”
もっとも大船渡の投手たちには、佐々木とマウンドを分け合うがゆえのプレッシャーがあった。目の前の打者に加えて、怪物の登板を望む“外野の声”とも戦わなければならないからだ。
同期の投手で、駿河台大学でいまも野球を続ける和田吟太が打ち明ける。
「自分が投げるとき、お客さんは朗希を見に来ているので、“ああ、おまえなのか”と思うわけです。ぼくには聞こえないと思うのか、実際に口に出すお客さんもいて、そういうのが耳に入ることがあるんですよ。試合中は、できるだけ気にしないようにしているんですが」
自分のことで投手陣に余計な負担がかかっている。
だれよりも周りが見える佐々木には、そのことがわかっていたのだろう。
和田が続ける。
「そういうとき、外野を守っている朗希はベンチに帰ってくると、ぼくにアドバイスするんです。“インコース増やした方がいいよ”なんて。それは配球に集中させることで、余計なことを考えさせないようにしていたのだと思います」
「そんな声、気にすんな!」というと逆効果になりかねないから、配球についての声かけをして投球に集中させる。
異次元の地平に立つ同級生は、10代とは思えない気づかいができる大人びたところがあった。