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「今のメンバーでは走らせられない」今季の盗塁数12球団最少…カープ伝統の機動力野球が影を潜める理由とは?《誠也移籍の影響も》
posted2022/06/06 06:01
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
KYODO
広島に何が起きているのか——。
開幕直後の勢いから一転、急失速した交流戦の戦いぶりではない。今季、広島が残すある数字に異変を感じている。それは、12球団最少の10という盗塁数にある(6月6日時点。数字は以下同様)。
広島と言えば機動力野球、と長く言われてきた。「機動力=盗塁」ではないものの、広島の機動力野球を強く印象づけてきたのは盗塁の数であった。
調べてみると、リーグ最少の盗塁を記録したシーズンは黎明期を中心に7度ある。ただ、広島野球の基礎をつくったともいえる球団初優勝の75年以降は、81年の1度のみ。広島がリーグ優勝した計9シーズンの盗塁数を見ると、リーグ1位が6度、2位が3度。印象に残るのも当然である。
そんな広島の足攻が今季は影を潜めている。リーグ5位DeNAの盗塁数に盗塁失敗数を加えても及ばない。昨季リーグ3位の盗塁数からここまで急激に数字を落とすほど戦力が落ちたとは思えず、走力や走塁技術が落ちたとも考えにくい。
58試合で10盗塁はシーズン143試合換算で24.7盗塁となり、プロ野球史上最少のペースだ。日本プロ野球史上最少だった85年ヤクルト(130試合)、93年中日(132試合)、94年巨人(130試合)の29盗塁を下回る。
盗塁数が上がれば得点数が上がるわけでもないし、勝率が上がるわけでもない。事実、今季の広島は盗塁数だけでなく、本塁打数もリーグ最少の24本にとどまっている中で、リーグトップタイの得点数を残している。
影を潜めた機動力野球
盗塁だけでなく、ヒットエンドランなど機動力を絡めた作戦もあまり見られない。相手バッテリーを揺さぶるでも、警戒させるでもなく、バッテリーと打者との“ガチンコ勝負”ばかり。選手個々の能力で打開してきた印象が強い。とはいえ、リーグトップのチーム打率.253を残している打線は強力と言える。
交流戦では多彩な攻撃を繰り出してくるパ・リーグ相手に劣勢を強いられている。交流戦12試合で打率.219、0本塁打、22得点、2盗塁に対し、対戦相手には打率.264、12本塁打、61得点、9盗塁を許している。
負けが込めば、見えなかった弱点が浮き彫りになることもある。攻撃のバリエーションを欠く状況にも、東出輝裕野手総合コーチは冷静に現状を捉えている。