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「鳥海はチャラい」「いつも通りふざけてる」と言われたけど… 車いすバスケの異端児・鳥海連志が“緊張しないメンタル”を保てるワケ
text by
鳥海連志Renshi Chokai
photograph byAlex Pantling/Getty Images
posted2022/06/03 17:01
東京パラリンピックでの鳥海連志
日本代表のメンバーもそれは基本的に同じで、「日本代表ってこういう存在だよね」とか「アスリートってこうあるべきだよね」というような世間のイメージからなるべく外れないよう意識して、言動や振る舞いに気を遣っている人が多いように思う。
先輩たちを見ていると、それに捉われすぎるのも大変そうだなと思うし、「周りからの見られ方って、そんなに気にしなきゃいけないものなんだろうか?」と思ってしまうのも、僕がまだ未熟だからなのかもしれない。
東京パラの後、ありがたいことにたくさんの注目をいただいている。でも、できれば今までどおり、まわりに必要以上に気を遣うことなく、捉われることなく「問題児」のままで生きていたいというのが、僕のささやかな望みだ。
東京パラ時も「あいつら、いつも通りふざけてるな」
〈#12 いつも通りでいる〉
僕にとって、これまでのバスケット人生で最大の山場となった東京パラ。さぞ高揚しながら選手村で過ごしていたのでは? と想像される方がいるかもしれないが、むしろ逆で、普段とほぼ変わりのないテンションで、いつも通りに大会期間中を過ごしていた。
ちなみに僕は大会期間中に2度髪型を変えているが、普段から頻繁に髪型を変えているので、特別なことという認識はない。
僕は東京パラの大会期間中、主に以下のようなタイムスケジュールで過ごしていた。
・起床
・朝食
・公式練習
・昼食
・ミーティング
・アップ、試合
・食事
・ケア
・入浴
・就寝
アップに入る前の控え室では高柗と2ショット写真を撮り、家族のLINEグループに「いってきます!」という言葉を添えて投稿。試合後はゆっくりと風呂に浸かり、スマホでお笑い番組を流しながら寝落ちする。これを毎日のルーティンとして過ごしていた。
決勝戦の前日も緊張感はなく、試合直前の選手紹介のときも、高柗とくだらない話をして笑っていたし、みんなも「あいつら、いつも通りふざけてるな」という感じで僕らを見ていた。
特別な日だからといって特別なことをせず、普段と同じ生活リズムを保ち、普段どおりに過ごす。
これはメンタルトレーニングで「ルーティン」と呼ばれる手法を取り入れたもので、スポーツ界においては、大事な場面でパフォーマンスを発揮する上でとても大切な習慣とされている。
僕は緊張したり、一喜一憂したりがあまりない
チーム全体で長くメンタルトレーニングに取り組み、この習慣が染み付いている代表メンバーは、おそらく皆、僕と同じように普段通りの過ごし方をしていたんじゃないかと思う。「生活のルーティン化」とも呼ぶべき前述のような取り組みに加え、プレーに直結したルーティンを備えているアスリートも多い。
元プロ野球選手のイチローさんが、バッターボックスでバットを立てユニフォームの肩口を寄せるのは、これの代表例。立ちバスケの選手だと、フリースローを打つまでの一連の動作(ドリブル→キャッチ→セット→リリース)をルーティン化する人も多い。