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「まずYouTubeで検索するのが普通」「誹謗中傷については…」車いすバスケ鳥海連志23歳の新世代アスリート発信術〈インタビュー〉
posted2022/06/03 17:00
text by
青木美帆Miho Awokie
photograph by
Yuki Suenaga
鳥海連志(WOWOW)は、昨年の東京パラリンピックで誕生したニューヒーローだ。
史上最高位となるパラリンピック銀メダルに輝いた、車いすバスケットボール男子日本代表の若き主軸。競技用の車いすを自分の体のように操り、ゆるいウェーブのかかった髪をなびかせながらボールを追う姿は、“車いすバスケ”、”パラアスリート”といったカテゴリーを飛び越えて、多くの人々にインパクトを植え付けた。
SNS投票による大会MVP受賞はもちろんのこと、ベストドレッサー賞の受賞、KEITA MARUYAMAやメゾン ミハラヤスヒロのファッションショーへの出演は、そのインパクトの表れとも言えるだろう。
切ったんです。裾をパンツに入れ直すのが面倒なので
鳥海は今年2月に、初の著書『異なれ』(ワニブックス)を刊行した。私は制作チームの一人としてこれに関わり、プレーで大いに驚かされた鳥海に、人柄や言葉、思考でさらに驚かされた。
できることにフォーカスし、できないことは人に助けてもらえばいいという前向きさ。身の回りの最小限のコミュニティにだけ目を向け、その外からの声は一切気にしないという潔さ。そしてタイトルのモチーフにもなった、人と異なる自分を認め、愛する力。23歳の若者のマインドに、大いに学ばされた。
制作の最中に、印象的だった出来事がある。所属クラブ(パラ神奈川SC)の練習試合を見学させてもらったとき、鳥海のビブスが他選手と比べてとても短いことに気づいた。鳥海にそれを尋ねたら、こともなげに返ってきた。
「ああ、切ったんです。裾をパンツに入れ直すのが面倒なので」
鳥海は東京パラリンピックを戦うにあたって、車椅子の座面の20センチ上げやティルティングの習得など、これまでの常識を打ち破るような挑戦を成功させている。しかし、このようなキャッチーなとらえ方をしているのは私を含む外野の人間だけで、本人は「目標を実現する一番の近道がそれだっただけ」と、大した感慨もない様子だった。
競技中に裾を直す手間を省きたいというのはよく理解できる。ただ、だからといって「切る」という発想に至る人はそういないだろう。著書からあふれ出る、若者らしからぬ冷静さや胆力を間近に感じさせられた瞬間だった。
“スポーツ観戦が長すぎ”説、めちゃくちゃよくわかります
現在、SNSを筆頭にしたテクノロジーの進化や、多様な価値観の浸透により、令和のアスリートは昭和・平成の時代にはなかった様々な課題に立ち向かうことが宿命づけられている。これからを生きるアスリートや人々に求められるマインドとは、どんなものなのか。鳥海にだからこそ、聞いてみたくなった。