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「鳥海はチャラい」「いつも通りふざけてる」と言われたけど… 車いすバスケの異端児・鳥海連志が“緊張しないメンタル”を保てるワケ 

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鳥海連志

鳥海連志Renshi Chokai

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photograph byAlex Pantling/Getty Images

posted2022/06/03 17:01

「鳥海はチャラい」「いつも通りふざけてる」と言われたけど… 車いすバスケの異端児・鳥海連志が“緊張しないメンタル”を保てるワケ<Number Web> photograph by Alex Pantling/Getty Images

東京パラリンピックでの鳥海連志

 先の項でも紹介したが、僕は練習前のウォーミングアップで、まずはゴール下のシュートを打つことをルーティンとしている。シュートを打ちながら「さあ、集中するぞ」と自分に意識づけすることを繰り返しているうちに、自然とバスケットに入り込めるようになった。

 僕は緊張したり、一喜一憂したりということがあまりないタイプの人間だ。元々の性格もあるのだろうが、メンタルトレーニングを重ね、いつも通りに過ごす術を身につけたことも、それに少なからず影響しているんだと思う。

感情的にならない、しなやかなメンタル術

<#13 感情的にならない>

 長年積んできたメンタルトレーニングによって、僕ら日本代表メンバーは、外的なストレスに振り回されず、常にいつも通りでいられる“しなやかなメンタル”を身につけるように取り組んできた。

 日本代表の最大の強みは、相手のやりたいことを5人全員の連携で守るシステマティックなディフェンスだ。常にルールに従って動くことが求められるこのディフェンスでは、テンションやパッション、そして何より冷静さが求められる。

 僕らはメンタルトレーニングを通して、ディフェンスに欠かせない「平常心」を身につけたことで、銀メダルという成績を挙げることができたと思っている。

 僕は“強メンタル”揃いの代表メンバーの中でも、とりわけメンタルが強い選手だと自負している。

 緊張しない。
 ネガティブにならない。
 自己肯定感が高く、何でもできると思っている。

 元々の性格を土台に、トレーニングによって上積みされた僕の強みは、東京パラでもしっかり生かされたと振り返っている。

どんどん僕に注目してくれ

 カナダ戦ではコントロール不能な精神状態になってしまったものの、それ以外の試合はいつも通りのメンタルで試合を戦った。

 予選ラウンドのキーとなった韓国戦も、歴史的快挙と報道されたイギリス戦も、決勝のアメリカ戦も、「やってやるぞ」というような意気込みや、特別な高揚感などは持っていなかった。「今までやってきたことしかやれない」というマインドで、いつも通り寝て起きて、いつも通りふざけながらウォーミングアップをして、いつも通りのテンションで戦ったのだ。

 劣勢になったときやミスがつづいたときも、あせったり動揺したりはしなかった。

 初戦のコロンビア戦でトリプルダブル(得点、アシスト、リバウンドの3部門で2ケタ以上の数字を挙げること)を達成したこともあってか、対戦相手は僕の特徴をしっかりスカウティングし、それを踏まえて僕のプレーを抑えにきた。

 でも、そういった対策を苦しいとは感じなかった。「僕が目立てば目立つほど、他のメンバーのマークが甘くなって点をとりやすくなる。どんどん僕に注目してくれ」と考え、コートにいる5人全員でゲームを作り上げた。

メンタルトレーニングで大切なのは……

 大会期間中はインスタグラムへの反応が急激に増え、コロンビア戦の後には一気に2000人以上の人がフォローしてくれた。とても驚いたが、それをプレッシャーに感じたり、「もっと活躍してやろう」と思ったりすることはなかった。

 また、インスタグラムのメンションや多種メディアでの取り扱いをを見てみると、僕がコロンビア戦でやった「バウンドストップ」(ボールを大きくバウンドさせてから車いすを急ブレーキで止める)で相手マークを外し、シュートを決めたプレーがバズっていたようだが、これに関しても自分の中で「やってやったぜ」という感覚はなく、「このプレーで盛り上がってくれたんだ!」と思っただけだった。

【次ページ】 「セルフ・トーク」という手法って?

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#鳥海連志

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