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9年前、ダルビッシュ有が「あと1人」まで迫った“奇跡のパーフェクト”…27人目にヒットを許した後の笑顔はとてもチャーミングだった
posted2022/04/22 06:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
Dominate.
ドミネート、圧倒する。
球界最高峰のメジャーリーグという世界で、プライドも技術も高い打者を圧倒するのは並大抵のことではない。
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2012年にテキサス・レンジャーズに入団したダルビッシュ有は、相手打線を圧倒する投球を幾度となく見せてきたが、中でも、“傑作”と目されるのは、13年4月2日、ヒューストン・アストロズとの一戦である。この試合、ダルビッシュは、まさに相手をドミネートした。
「とにかく彼は探求心が旺盛だ」
この年の春、アリゾナ州のサプライズ(ここには美味しいフォーのお店があった)にあるキャンプ地に取材に赴くと、旧知のアメリカのスポーツ誌の記者がこんな話をしてきた。
「ダルビッシュという投手は面白いね。とってもいい投球をして勝ち星をあげているのに、『改善点がある』といって、メカニック(注・投球技術)をちょっといじってしまう。必ずしも、それがプラスに働くとは限らないんだけど、とにかく彼は探求心が旺盛だ。日本でもそうだったのかい?」
メジャー2年目を迎え、ダルビッシュは配球についてトライ&エラーを繰り返していたようだったが(いまもこの学究肌は変わっていない)、シーズン初登板となったアストロズ戦で、ダルビッシュはキャンプでの研究成果を披露する。
先頭のホセ・アルトゥーベを三振に切って取ると、3回まで三振6。4回には1番から3番までを三者連続三振、6回までに三振は11を数え、ランナーをひとりも出していなかった。
パーフェクト、完全試合の予感――。
レンジャーズのダグアウトは、この頃になるとダルビッシュに声を掛ける仲間はいなくなっていた。