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鈴木誠也21歳「歳が近いのに、化け物が…追い抜きたい」 黒田博樹が目標を授けてくれた《最強打者トラウトと背番号27秘話》
posted2022/04/23 06:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Getty Images
赤から青のユニホームに袖を通した今、一体どんな景色が見えているのだろう。広島からシカゴ・カブスに移籍した鈴木誠也は、アリゾナでのスプリングトレーニングに参加している。慣れない環境に目に見えぬ疲れはあるだろうが、時折笑顔を見せながら打撃練習になると表情が一変する。日本の春季キャンプとは流れや内容も異なる中、思い描いていた場所に立つ鈴木は、いつもと変わらぬ鈴木だった。
長く続いたロックアウトを経て、ようやく移籍先が決まった。契約締結の一報に、声がうわずる記者とは対照的に、スマホから聞こえてくるその声は落ち着いていた。
「ホッとした?」という問いかけにも「やっと始まるなと思っています」ときっぱり。喜びよりも、覚悟を感じさせる声だった。
メジャーで一番の選手になりたいという思いで
メジャーへの夢や憧れを口にする選手もいるが、昨年11月に広島球団からポスティングシステムによる海外移籍が認められて以降、鈴木は「勝負するために行く」と言い続けてきた。どれだけロックアウトが長引いても、「分かっていたこと」と泰然自若としていた。今年、米国でプレーするという意志が揺れたことは一度もなく、緊張した様子の入団会見でも、しっかりと自分の意思を言葉にした。
「ここをずっと目標にしてやってきて、ここで一番の選手になりたいという思いで、日本でずっと取り組んできました。ようやくそのタイミングがきたので、挑戦を決めました」
メジャー移籍が挑戦なのではなく、メジャーで頂点を目指す、挑戦なのだ。
黒田が教えてくれた「化け物」トラウト
広島入団当初は、MLBへの興味はなかった。ただ目の前の壁を乗り越えるのに必死だった。試合に出るため、一軍に上がるため、レギュラーを掴むため――。周囲が驚くひたむきさと貪欲さで、高卒1年目から一軍を経験し、2年目以降は右肩上がりに出場機会を増やしていった。ただし、目の前にある目標に突き進みつつも、長期的な目標はまだ定められないでいた。