Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER

9年前、ダルビッシュ有が「あと1人」まで迫った“奇跡のパーフェクト”…27人目にヒットを許した後の笑顔はとてもチャーミングだった 

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

PROFILE

photograph byAFLO

posted2022/04/22 06:00

9年前、ダルビッシュ有が「あと1人」まで迫った“奇跡のパーフェクト”…27人目にヒットを許した後の笑顔はとてもチャーミングだった<Number Web> photograph by AFLO

2013年4月2日、完全試合まで「あと1人」に迫る快投を見せたダルビッシュ有。MLBの舞台で圧倒的な実力を証明した

 ゴンザレスは初球の外角高めのカッター(フォーシームに見えないこともないのだが)を強振、すると鋭い打球がダルビッシュの股間を抜けていった。

 完全試合、ならず。

 メジャーリーグは150年を超える長い歴史を持ち、これまで21万8000を超える試合が行われてきた。そのなかで、完全試合が達成されたのは、19世紀の2試合を含めてわずか23試合である。中にはサイ・ヤング、サンディ・コーファックス、ランディ・ジョンソンといった殿堂入りの名投手も名を連ねているが、ノーヒッター7回を誇るノーラン・ライアンでさえ、完全試合は達成していない。

 とにかく、完全試合達成は奇跡なのである。ゴンザレスはいまもミネソタ・ツインズで現役を続けているが、私の中ではダルビッシュの完全試合を潰した男として記憶されている。

ダルビッシュの笑顔はチャーミングだった

 本当に、惜しかった。それ以上の言葉がなかった。

 それでも、ヒットを打たれたダルビッシュは笑顔を浮かべた。

 その表情は苦笑いというべきか、しかしどことなく爽やかな表情にも読み取れて、かなりチャーミングだった。

 マウンドではストイックな日本人を見慣れていただけに、その笑顔は新鮮だった。この表情を見て、ダルビッシュはこれまでの日本人投手が作ってきた文脈とは違う新しい流れを作り、シーズンを通してドミネートするかもしれないという期待を感じさせた。

 手術、ワールドシリーズでの苦杯など紆余曲折はありながらも、その予感は、間違っていなかったと、20年のいま思う。それほど、あの日の投球は素晴らしかった。

【初出:Sports Graphic Number1014号『ダルビッシュ進化論』2020年11月5日発売号より ※肩書などはすべて当時】

関連記事

BACK 1 2 3
ダルビッシュ有
テキサス・レンジャーズ
ヒューストン・アストロズ
マーウィン・ゴンザレス

MLBの前後の記事

ページトップ