Jをめぐる冒険BACK NUMBER
「バルサの練習に参加できないか」頼んだ相手はまさかの…岩本輝雄が振り返る引退前の仰天エピソード《戦友・森保監督への要望》
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2022/04/08 17:04
度重なるケガにも泣かされたサッカー人生を振り返った岩本輝雄。懸命にリハビリに励んでいた頃、幸運に恵まれた
現役引退後、子供たちにサッカーを教えながら、年に何度もスペインに渡り、バルセロナのサッカーを観戦していた岩本はある日、稲妻に打たれたような衝撃を受ける。
12年、バルセロナ視察からの帰国後、地元・横浜のみなとみらいで開催されている大会に足を運んだ。そこで、まるでバルセロナのように自在にボールを動かし、相手の守備組織を破壊するチームを目にしたのだ。
そのチームとは、中川寛斗、秋野央樹、小林祐介、中谷進之介といった、のちにトップ昇格する選手を擁し、岩本のひとつ年上の下平隆宏が率いる柏レイソルU-18だった。
「なんだ、これは!? って。このサッカー、どういうふうにやっているのか、どうやってローテーションしているのか、どうやって侵入しているのか、全然分からなかった。あれを観て、俺もサッカー、ちゃんと勉強しないといけないなと思ったよ。すぐにシモに質問しに行って、練習も見学させてもらって。シモはiPadで映像を編集していたから、それを送ってもらって勉強した。5対3とか、7対3とか、ポゼッションの練習はどんなことをしているのかとか、ハメられたときはどう剥がすのかとか」
柏で理解を深めると、今度はスペインに飛んで本家のサッカーを堪能する。
さらに、現地の日本人指導者からバルサの戦術を詳しく教わり、自分のものにしていった。
さらには、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督、長谷川健太監督、曺貴裁監督など、気になったチームを訪れては指揮官に質問し、レクチャーを仰ぎ、貪欲にサッカーを学び直した。
「FC東京の監督も良いよね」
「今季の開幕戦のフロンターレとFC東京の試合も、チケットを買って観に行ったよ。FC東京の監督(アルベル・プッチ・オルトネダ)も良いよね。彼には昨年、新潟まで会いに行って話を聞かせてもらったんだ。それにしてもFC東京のセンターバックはなんで、あんなに開いちゃうんだろうね。開きすぎると、相手のウイングからするとラッキーなんだよ。もう少し狭くしていれば、家長(昭博)が出て来ざるを得ない。家長の裏にひとり立たせておけば、インテリオールを引っ張りだせるんだから。ただ、あまり前に立ちすぎると、サイドバックの山根視来に寄せられちゃうから、中間ポジションで。どうやったら王者フロンターレを苦しめられるかなとか、考えるのが楽しいんだよね。あとさあ……」
戦術論のスイッチが入ると、岩本はこれまで以上に雄弁に、身振り手振りをまじえて語り続けた。話題はバルサへ、リバプールへと展開していく。「戦術のこととかまったくわかっていなかった」人物とは思えないほどだ。
「現役時代、もう少しサッカーのことが分かっていたら、もっとやれただろうね」と岩本は苦笑する。