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「奥さん同士が給料でケンカ」「暴行事件で解雇も…」敏腕サッカー代理人に聞く、Jリーグで成功するブラジル人、失敗するブラジル人の“差”
text by
栗原正夫Masao Kurihara
photograph byGetty Images
posted2022/03/25 11:01
昨季リーグ23得点で得点王、Jリーグ最優秀選手をW受賞、ベスト11にも選ばれたレアンドロ・ダミアン(32歳)。2019年シーズンに川崎に移籍してきた。元ブラジル代表、セレソンでは17試合に出場
「もちろん選手本人とも面談はしますが、正直、その場だけいい顔をすることはできます。だから、そのときの態度はあまり信用しません。
むしろブラジルの家庭では奥さんの力が強いので、奥さんの人柄はすごく気にします。ブラジルでは育ってきた環境や、どの地域の出身かでも変わります。生活が安定しないと選手もサッカーに集中できませんし、奥さんや家族がいかにうまく日本のコミュニティに馴染めるかはすごく重要な要素になってきます。実際、以前にはブラジル人選手の奥さん同士が『ウチのダンナのサラリーが○○で、アンタのダンナが●●(こちらのほうが高い)ってどういうこと!』なんて揉めて大変だったこともありましたからね」
「人間関係トラブルで2カ月で帰国も…」
そうして何人もの選手の映像をチェックし、現地での視察を重ねても、外れるときは外れる。とくにブラジル人は気持ちの浮き沈みも激しく、稲川は外国人選手の獲得は、ある意味でギャンブルに近いともいう。
03年、稲川はブラジルの古豪フルミネンセから札幌入りしたベットの仲介を務めた。ブラジル代表経験もあったMFのベットは、96年にかつてマラドーナもプレーしたイタリアのナポリで背番号10を背負ったこともあり、その能力を高く評価されていた逸材だった。
「ただ、性格に難があって、人間関係のトラブルに巻き込まれ約2カ月で帰国してしまいました。僕との契約はそれっきりでしたが、そのあとに広島でもプレーし、結局最後は暴行事件を起こして解雇されてしまった。それを失敗といえば、そういうことは何度もありますよ」
代理人としては、契約にかかわった選手の活躍が何より。だが、外国人選手が日本で輝けるかどうかは選手自身の問題だけでなく、獲得した側(クラブスタッフや監督)の努力や理解も必要だと稲川は強調する。
「どれだけいい選手でも、起用する側がその選手を理解していなければうまくはいきません。選手はあくまで素材で、加工するのは監督やコーチの仕事ですから。外国人選手の場合、クラブの希望に沿って獲得したものの、途中で方針が変わったり、なかなか使われずに買い殺しになるなんてこともあります。そんなことになれば選手のプライドは傷つき、どんなにいい選手でもメンタルは落ちてしまう。
私は日本人を含めJクラブの監督の代理人もしています。だから、彼らにはこう言います。“ときに片目をつむることも必要だ”と。育ちも発想も違う外国人選手を呼んで、完全な日本式に当てはめるのは無理がある。Jリーグで勝つためには質の高い日本人選手に加え、足りないピースを埋める外国人選手が必要なわけで。彼らには日本人選手に足りないものを求めているわけじゃないですか。だったら、両者を同様に扱うのは少し違うのかなって。多少のことは目をつむって我慢して使い続ければ、きっと2倍になって返ってきます。それができないならわざわざ高いお金をかけて外国人選手なんて取らない方がいいんじゃないかって思ってしまいますけどね」
<#2、#3へ続く>
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