「終盤の途中出場が多く、酷いときは終了間際の2、3分しかピッチに立てないときもありました。じつは、その頃中国のクラブからオファーがあったんです。ただ、そんなときも彼は腐らずに、日本でやると言って練習から常に100％でやっていた。普通ブラジル代表クラスの選手なら、そんな扱いをされたら怒りを爆発させるものです。

　逆に言えば、彼は『チャンスさえもらえれば、絶対に活躍できる』と自信があったのかもしれません。並みの選手なら我慢できないところを我慢したのがダミアンの凄いところ。その後の活躍は誰もが知るところで、やっぱり謙虚さは欠かせないってことです」

毎年数回の“ブラジル視察”

　前出の3選手のほか、今季もJリーグでは稲川が契約にかかわった約20人もの外国人選手がプレーしている。

　ランゲラックは長くドイツでプレーしていたオーストラリア人選手だが、とりわけ稲川が強いルートを持つのがブラジルだ。新型コロナウイルスの流行後は以前のように頻繁に行き来することは難しくなったが、それまでは年に数回はブラジルを回り、選手の視察を繰り返してきた。

2020年、21年と2年連続でベスト11のジェジエウ（28歳）も稲川氏の事務所が契約する選手。19年シーズンから川崎でプレー　©Getty Images

「ビデオだけで選手を判断している代理人もいます。なぜ私がわざわざ現地まで行くのかといえば――前線の選手なら、たとえばざっくりどんなテクニックを持っているかはビデオでもわかります。ただ、やっぱり実際に見たときのスピード感こそ大事な気がするんです。それにボランチやDFの選手であればポジション取りなどはチームによってやり方も違いますし、（ブラジルのリーグに比べ）テンポの速い日本のサッカーに合うかどうかはやっぱり直接見ないとわからないですからね」

　そこで稲川が着目するのが、何か1つでも特長、優れた武器を持っているかどうかだ。

「強さ、速さ、技術。すべて持っていれば言うことないですが、いまの時代、3つ持っているブラジルの選手は（より資金のある）欧州のクラブに買われてしまいます。だから、3つのファクターのうち1つでも突き抜けたものを持っているかどうかを見ます。とはいえ基本的にはスピードはないと日本では難しい。それと、体は大きくなくても、ある程度の強さは欲しい。

　Jで成功するうえでは性格や人柄も大事で、そこはプレーや練習中の姿勢を見ていればだいたいは掴めるものです」

「ブラジルの家庭では奥さんの力が強い」

　Jクラブが外国人選手を獲得する際、外国人選手には母国での代理人がついているケースがほとんどで、稲川は日本側の窓口として動くことになる。契約を結ぶ際には、できる限り本人だけでなく、奥さんや家族にも会うようにしているという。

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