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人類初の2時間切りまで“あと99秒”…キプチョゲが語る“F1化するマラソン”「それでも速く走るのはシューズではなくてランナーです」
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/03/05 17:00
3年ぶりに開催される東京マラソンに出場する世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ
とくにシューズの進化は著しく、このチャレンジのためにナイキが開発した「ナイキズームヴェイパーフライエリート」は、マラソン界に衝撃を与えた。これまでレーシングシューズといえば、軽量化と、地面からの反発力を狙って、薄いソールを使うのが一般的だった。しかし、それは着地時の衝撃も大きくなることを意味し、疲労や故障の原因にもなる。
その二律背反を解決すべく、ナイキの開発チームは厚底でクッション性がよく、軽量な新素材を投入。さらに、カーボンのプレートを組み合わせることで、地面からの高い反発力も実現した。Breaking2は、その新しいシューズの性能を証明し、世界に発表するイベントでもあったわけだ。実際、その後に発売された「ナイキズームヴェイパーフライ4%」が市民ランナーの間でブームを巻き起こしたのは、ご存知の通りである。
このシューズの開発にあたって、キプチョゲはさまざまなフィードバックを行い、改良バージョンを履いて連勝を続けている。とくに今年のロンドンマラソンでは、ヴェイパーフライエリートや4%を履いたランナーが7位までを独占。日本でも、設楽悠太がこのシューズを履いて日本記録を更新したのは記憶に新しいところだ。
シューズ開発が進んでも「速く走るのはランナーです」
ひとつの製品がここまで競技にインパクトを与えたのは、競泳でレーザー・レーサーが登場したとき以来だろう。その是非をめぐってはさまざまな議論があるが、キプチョゲ自身のコメントがすべてを物語っているように思う。
「これまでのどのシューズよりも速いシューズを作ることに私は協力しました。それでも、速く走るのはシューズではなくてランナーです。実際のところ、このシューズは私だけのものではなく、すべてのランナーのためのものです」
ヴェイパーフライの技術を用いながら、日々のトレーニング向けのシューズとして新開発された「ナイキズームペガサスターボ」も、やはりキプチョゲのフィードバックを受けている。
人類最速ランナーのマラソン哲学
マラソン11戦10勝。リオ五輪の金メダリストにして、世界記録保持者。頂点に立ったいまも、キプチョゲにはスター然としたころがまったくない。ケニアのトレーニングキャンプで他のランナーたちと集団生活をおくり、余暇は家族とすごし、読書を楽しむ。話をするときはたえず微笑を浮かべ、語り口は柔らかで、言葉は短く凝縮されている。マラソンについてたずねると、哲人のように簡潔明瞭な答えが返ってくる。たとえば、こんな具合だ。