令和の野球探訪BACK NUMBER
幼稚園児が4時間も練習できる? 野球離れの原因は“長すぎる練習時間”…学童野球に必要なのは“大人の指導”ではない
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2022/02/24 06:00
三振なし、ユニフォームがなくても参加OKの「オレンジボール」。子どもたちの楽しそうな表情が印象的だった
2019年に実施した同イベントには野球チームに所属していない小学3〜6年生の約130名(うち女子が約35%)に集まった。わずか2時間弱の「野球あそび」によって、ボール投げの記録が平均2mも伸び、ある小3男子にいたっては8m記録を伸ばしたのだという。
「野球あそび」で大事にしたのは、“大人に習わず、遊びながら上手に投げられるようにしよう!”というもの。勝亦氏らが中心となった大人による仕掛けはこうだ。
子どもたちには、積み上げられた段ボール、壁やペットボトル、地面に置かれたトランポリンなどを用意し、それぞれに思いきりよくボールを投げつけてもらう。
段ボールを倒すことを考えれば、思いきりよく投げるために、自然と「体を大きく使う」ようになる。壁や的となるペットボトルに向かって投げることで「投げる方向を調整する」ようになる。トランポリンに向けて真下に投げようと思えば、自然と肩肘が上がった「安全な投げ方が身につく」。
この動作が「ボールを上手く遠くに投げる」ことに繋がり、前述の記録につながったという。
「大人の指導」よりも「環境の整備」
このことからも分かるように、大人たちに必要なのは「指導よりも環境の整備だ」と勝亦氏は力強く語る。
「野球を楽しめる環境を作ってあげることが大人の役割。それは決して大会や野球教室を開催するということだけではありません。現在の学童野球の問題点として、大会や野球教室が多すぎるということも言われているほどですから」
大会が多くなって試合数が増えれば選手たちの体の負担も大きくなる。野球教室も「既に野球をしている子どもたち」が対象の場合が多く、また都心部では開催が多すぎるため、「この週はこのイベントに◯人、来週は別のイベントに○人と選手を振り分けないといけない」といった声もある。普及への効果や負担を考えると、単に「開催することが素晴らしい」とは言い切れない。
野球を普及させたいと願うと、どうしても「大人たちの考え」が先行しがちになるが、「子どもたちが純粋に楽しく野球ができる環境の整備」にこそ、もっと目を向けるべきだろう。
「オレンジボール」と「野球あそび」イベントのグラウンドに溢れていた子どもたちの笑顔を思い返すと、そう思わずにはいられない。
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