令和の野球探訪BACK NUMBER
幼稚園児が4時間も練習できる? 野球離れの原因は“長すぎる練習時間”…学童野球に必要なのは“大人の指導”ではない
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2022/02/24 06:00
三振なし、ユニフォームがなくても参加OKの「オレンジボール」。子どもたちの楽しそうな表情が印象的だった
まず紹介したいのが群馬県などで行われている「オレンジボール」の取り組みだ。
昨年11月某日、同県高崎市のグラウンドには多くの少年少女が夢中でボールを追いかける姿があった。大人が丁寧に下投げしたオレンジ色の軟式ボール(D号球)を、子どもたちがバットの重みに負けないよう思いきりスイングし、駆け出していく。特徴的なのは、野球を始めたばかり、もしくは、これから野球を始める子どもたちのための特別ルールが設けられていることだ。
・投手は攻撃側の大人が担い、下から投げる
・三振、四死球はなし(バットに当たらない場合は、大人が補助して打たせる)
・打席人数の制限なし(打者を9名に縛らず、10番以降を設けてもよい)
・一度交代した選手の再出場が可能
・スライディング、盗塁、バントは禁止
・ダブルベースを採用
・外野フライは外野手がグラブに当てればアウト
・打球を処理した野手が投手に返球した以降に、進塁は不可
・靴は運動靴、服装は運動に適したものであればOK
・1回の攻撃の得点は5点まで。達した時点で攻守交代
指揮を執るのは監督・コーチのみ。親の関与は最低限に留めており、もちろん“お茶当番”もない。「親は応援のみ」というルールが設けられている。
また、打球を飛ばす喜びを知ってもらうために、ホームベースから外野ゾーン(北部リーグでは45メートル、群馬県の大会では50メートル)を超えたら、ホームランとし、記念にホームランボールもプレゼントされる。
「子どもたちは勝手に楽しんでくれる」
取材した現場では小学校高学年の子どもたちが低学年や幼稚園年長・年中の子どもたちに、お兄さん・お姉さんとして丁寧にやり方を教え、声援を送る姿があった。実に微笑ましい光景に、それを見守る大人たちにも自然と笑顔が広がっていた。
携わって10年ほどになる石川恒太さん(北部リーグ副会長)は「とにかく野球を楽しんでもらおうという趣旨でいます。と言っても、子どもたちは勝手に楽しんでいるんですけどね」と笑う。
決して強く促したわけではないが、この取材当日のイベントだけでも8人の子どもたちが、地元が主宰する学童野球チームに入団したという。彼らだけでなく、楽しさを感じた子どもたちは、これからも「野球」を遊びの選択肢に入れてくれるだろう。