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オリンピックPRESSBACK NUMBER
平野歩夢の金に“熱い涙”で話題…あのスノボー解説者が振り返る「採点に謎が多かった」「天才であるのは間違いない。でも比例して努力がある」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byJIJI PRESS
posted2022/02/13 17:04
日本スノーボード界に初の五輪金メダルをもたらした平野歩夢(23)。この偉業達成を、元オリンピアンで解説を務めた中井孝治はどう見たのか?
そして金メダルへの大きなキーポイントは、逆転が必要な3本目に新技に行かなかったこと。それがよかった。予想外に低かった2本目の採点にメンタルをやられて、もうかましてやろう! という感じになって転んでいたら一番嫌な終わり方だなと心配していました。
新技があるというのは何となく聞いていたので、ルーティン的には4回転半のフロントサイド1620しかないと思っていました。定石であれば最後の5発目のヒットを1620に変える構成になりますね。
周囲も呆れるほどの練習量「異常だよ。1日7時間だ」
五輪直前の合宿でも死に物狂いで練習していたそうです。五輪前最後のW杯がスイスのラークスでありましたが、ここのパイプの形状が北京と似ていて日本人好みなんです。だからアメリカ開催のXゲームを回避して、ラークスに残って調整した選手もいた。
ただ、歩夢は新技の1620を練習するためにアメリカに移動して、多い日にはバグジャンプ(大きなマットのようなものに飛び降りる練習施設)で1日69本も飛んだそうです。69本ですよ? おそらくスノーモービルで何度もピストン輸送してもらわないとこなせないし、本気で技の習得に励めば、マットとはいえ着地して身体に衝撃も受けます。驚いたのは、その後に「ハーフパイプ、滑りに行っていいですか?」ってまた練習に行ったそうです。関係者も「練習量が異常だよ。1日7時間だ」と呆れていました。
天才であるのは間違いない。でもその才能と比例して努力がある。東京五輪が終わってから短期間での調整だったはずですが、他の人ができないぐらいの練習量をこなした。自分がやるべきことを明確にして内容も濃い。みんながラークスに残ると言っても、ぶれずに自分のやるべきことを貫いたのも、やっぱりすごいことでしょう。
でも、その新技を最後に出さなかった。それもまた凄さです。普通だったら舞い上がって出してしまうと思うんです。「自分の怒りを滑りに変えた」と言っていましたが、やっぱり冷静に分析している。周りをしっかり見ているんですね。まだ2回目のルーティンの精度を上げれば勝てるはずだって。
僕も3本目は内心で「新技をするのか、しないのか」と思いながら見ていました。ラストヒットで出さなかったのを見て「ああ、よかった。やった」と思ったんです。
<後編に続く>
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