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高梨沙羅を失格にした審判員「彼女たちのことは何年も前から知っている」…日本人元五輪審判員は疑問「なぜ五輪で5名も違反になる?」
posted2022/02/10 11:05
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Getty Images
安らぎは、手のひらに落ちた雪のように束の間だった。
2月7日に行われたスキージャンプ混合団体の1回目、日本の1番手で登場した高梨沙羅は103mの大きなジャンプを見せた。点数が表示されて、ホッと微笑んでカメラに手を振る。今大会でテレビを通じて見ることができた、結果的に唯一と言ってもいい高梨の笑顔だった――。
長く葛藤してもがき続けた4年間は、そんな一瞬笑うためだけのものだったのだろうか。そうじゃなかったはずだ。思い出すたび胸が締めつけられるような刹那の笑顔だった。
2日前の個人戦ではメダルを逃して失意の4位。「もう私の出る幕じゃないのかもしれない」と思いつめていただけに、チームに大きく貢献できたこのジャンプには本人も救われる思いがしたはずだ。《もっとちゃんとテレマークを入れなきゃいけないな》と、くだけた感じで両手を横に広げる姿。心の余裕も少し取り戻して、高梨はマテリアルコントロールと呼ばれる用具の検査ルームに向かっていった。
しかし、すべてが暗転した。
元ヘッドコーチも衝撃「なんで今ここで、というのが…」
次にテレビに映し出されたとき、さっきまで笑っていた彼女はもういなかった。凍える寒さの中、うずくまって、小さくなって、泣いていた。あまりに打ちのめされて、ドイツチームのスタッフに差し出された涙を拭くためのティッシュも受け取れないほどだった。
スーツの規定違反による失格。信じたくないような、悪夢。
「なんで今ここで、というのがまず思ったことです」
日本で見守っていた小川孝博にも衝撃の展開だった。前回大会まで高梨らと一緒に世界を転戦し、五輪を戦ってきた女子代表の前ヘッドコーチだ。
「(個人戦に出場していた)勢藤(優花)とかと話をしても『なんで、今?』っていうのが現場の雰囲気だったみたいです。選手は常に特注のスーツを何着も持っていて、その中の2つ、3つを会場に持ってくる。完璧にフィットしていなければ、その箇所を詰めて合わせたりもします。その選手の体に合わせてすべて規定内で作ってますから。まあ、規定のギリギリではあるんですが……」
ジャンプのスーツはどう“検査”されているのか?
ジャンプを飛んだ後、ランダムに選ばれた選手はエクイップメントの検査を受ける。スーツは体に対して男子なら1~3cm、女子は2~4cmのゆとりを認められている。
「どう計測するかというと、足周りであれば膝や腰骨から下に何cmというふうに位置を決めて、まず体に線を引いて、そこでぐるりと実寸を測るんです。スーツには腰骨にかかるところに帯がある。そこから同じように何cm下に、と測った上でスーツの外周を測ります。そこで規定以上にスーツのサイズの方が大きいと失格ということになりますね」