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「将棋を嫌いになりつつあった」「体も心も削り取られる1年」順位戦降級危機と敗戦直後…高見泰地が今も感謝する“後輩棋士の寄り添い”とは
posted2025/04/20 06:03

満開の桜となった中でインタビューに応じてくれた高見泰地七段。新たな年度も、順位戦で渾身の棋譜を残すはず
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大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Shintaro Okawa
勝手に想像して返り討ちに遭った。自爆ですよ
ネット中継で観戦していて、首を傾げたのを覚えている。
2024年ラストの10回戦、一緒にB級2組から昇級してきた石井との一局は、中盤でいきなり形勢に差がついてしまった。まだ陽が高い午後3時、高見は47手目に勢いよく左桂を跳ねて石井の右桂にぶつけたところ、評価値は急落。これから本格的に戦いが始まろうとした矢先のミスだった。
「石井さんもビビってるんじゃないかと思っちゃったんですよ」と高見が顔をしかめた。
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ビビってる?
「自分が5勝4敗で、石井さんは4勝4敗。同じ昇級組なのでお互いに順位が悪い。石井さんの精神状態を想像して、早めに仕掛けられたら怖いんじゃないか、困るんじゃないかと思ったんです。それで桂をバンと跳ねてファイトしたら、的確にとがめられてしまった。相手の精神状態なんてわかるわけないのに、勝手に想像して返り討ちに遭った。自爆ですよ」と吐き捨てるように言った。
自分を鋭く斬る高見の姿を見ながら、一方で面白いものだな、と私は思った。石井が自分と同じような星取りだから、精神状態も自分と似通っているのではないかと想像して動いたのだ。順位戦独特の現象だろう。
「石井さんのことを認めているからでもあるんです。石井さんを相手に長引いたらまずいと思っているから動いた。でも石井さんが7勝1敗や6勝2敗だったらファイトしていないんです。星取りで手を変えるなんてことは本当よくないことで、目の前の局面の最善を求めなきゃいけない。わかってるんですよ、そんなことは。でも早く勝ってラクになりたかった。これを勝てば安心して年を越せるぞ、って」
負けた将棋のことは気にしてもしょうがないんですよ
年末年始の華やかな雰囲気に自分を溶け込ませることはできなかった。
1月は抜け番だ。高見が参加しない11回戦は1月16日に行われた。2日後に朝日杯の本戦が名古屋で行われるので自宅で調整していたが、スマホにかじりついていた。
「全部の星取りを今でも覚えていますよ」
と高見は言う。大石直嗣七段が4勝目、広瀬章人九段が5勝目、石井が6勝目を挙げた。3人の降級枠で、最後の1枠に引っかかりそうだった競争相手が次々に白星を挙げていく。部屋の中でただ1人、高見はスマホを握りしめながら声にならない叫びを心中で上げていた。
2月6日の12回戦は、5勝6敗の広瀬との対戦だった。