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平野歩夢、戸塚優斗、ショーンホワイト…大混戦すぎる五輪スノボー「金メダル候補は誰なのか?」を徹底分析〈直前戦況〉
posted2022/02/01 17:02
text by
野上大介Daisuke Nogami
photograph by
AFLO
連続ダブルコーク1440(縦2回転と横4回転を同時に回す)が金メダル獲得のために不可欠だった平昌五輪から4年の時を経て、ハーフパイプ界はあらたなるフェーズに入っている。
2012年4月にトリノ、バンクーバー五輪の覇者であるショーン・ホワイト(アメリカ)がソチ五輪に向けて開発に乗り出すも大ケガを負い断念した超大技が、およそ10年の時を経て現実化したのだ。縦3回転と横4回転を同時に回す「トリプルコーク1440」である。
平野の「トリプルコーク1440」成功はどれだけ凄いのか?
2015年4月に中国のチャン・イーウェイが練習中にキャブ(通常のスタンスとは反対向きから腹側に回す)トリプルコーク1440を世界で初めて成功させているが、それでも着地するのに精一杯の内容。とても大会で使えるシロモノではない。それもそのはずで、平昌五輪に向けてトリプルコークに挑戦するライダーは現れなかった。しかし、同じスノーボードでもビッグエアでは、トリプルコークはスタンダードなトリック(技)である。
では、なぜハーフパイプでは「トリプルコーク」は10年以上も現実化しなかったのか。
ビッグエアは、ハーフパイプと比較して滞空時間が長く、着地面が広く確保されている。一方で、ハーフパイプという限られた半円状のコースでトリプルコークを成功させるには必要なエアの高さを生み出しながら、次のヒットにつなぐために螺旋状に発生する強烈な遠心力をリップ(ハーフパイプの縁部分)付近で抑え込まなければならない。この難易度を大会で成功させることは極めて難しい。
だからこそ、ソチ以降の五輪ではその螺旋状の回転を一度“ほどいて”横回転を入れるダブルコーク1440が勝負のカギを握っていた。にもかかわらず、長きにわたり完成に至らなかったこの超絶トリックを、昨年8月5日までスケートボードにまたがっていた平野歩夢が大会で初成功させてしまったのだ。
スケボー漬けの3年が生んだ“大技の高い精度”
スノーボードと同じく4歳から始めたスケートボードの技術が雪上で融合されている歩夢の滑りは、テイクオフ(踏み切り)やボトムラン(ハーフパイプ底部での滑り)、ラインどりなど基礎的な動きの上手さに定評があったが、東京五輪を目指しおよそ3年を費やして本格的にスケートボードに集中したことで、より研ぎ澄まされた。さらに、足が固定されていないスケートボードであらゆるパークのトランジション(R形状)を滑り込んだことで、足が固定されているスノーボードでは体得できない重心位置など、ボード上でのバランス感覚に磨きがかかった。