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なぜベンチ外のはずの阿部さんが? 「浦和の背番号22を継承」柴戸海に託された“天皇杯決勝前、40歳現役最後の貢献”とは
text by
塩畑大輔Daisuke Shiohata
photograph byJ.LEAGUE
posted2022/01/21 17:02
2021年、ホーム最終戦の引退セレモニー前の阿部勇樹
それでも増田さんたちは「チームのために」と懸命に修復につとめる。長引くリハビリで、阿部はそういった増田さんたちの仕事を見る機会が増えていた。
そうか、昨日は全体練習でああいうメニューがあそこで行われたから、重点的に直しているのか。そんなこともわかるようになってきた。だから、リハビリメニューを行う場所を気にするようになった。さらにその上で、増田さん、伊達さんに確認もとる。
「ここを使っていいですか?」と。
「各部署合同の会議に出た選手は阿部くらいです」
芝の管理スタッフだけではない。
24時間、クラブハウスの警備をするスタッフ。
ロッカールームの掃除や、選手のウェアの洗濯などを務める女性たち。
全体練習に参加できなくなった代わりに、阿部はこうした人々と関わる機会が増えた。フットボール本部・強化担当の水上裕文さんは明かす。
「各部署合同の会議に出たいと言って、実際に出席までした選手は、阿部くらいのものです」
リハビリ生活を続ける中だからこそ、再確認できた。サッカークラブには、かくも多くの人々が関わり、力を尽くしている。
夏、水上さんに伝えた「現役を続けるべきかどうか」
原因不明の痛みとの戦いは、4カ月間にも及んでいた。8月初旬には2カ月ぶりにリーグ戦に出場した。だが、わずか2分間プレーしただけで、再び戦線を離脱することになった。阿部はチームスタッフの中でも特に親しい水上さんに、こう打ち明けるようになった。
「現役を続けるべきかどうか、迷っている」
あせって決めることはない。そうアドバイスをされた。だが、早く結論を出すべきだという気持ちは、強まる一方だった。「プレーを続けたい」と願わなくなったわけではない。だがふとした拍子に、その気持ちが今までと同じような強さ、濃さではないかもしれない、と気づいてしまった。
そうした変化から、目を背けられるような阿部ではない。どこまでも生真面目に「こんな自分が現役を続けていいのか」と思い悩むようになった。
浦和がひとつにまとまったら、ものすごいことになる。
それを選手として見届けられなくなることだけが、強く引っかかった。リハビリ中に、チームを取り巻くたくさんの人々の姿をみたからこそ、余計にそう思った。
でも、一方でこうも思えた。