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「完璧な」ではなく「最高のキャプテン」帝京ラグビーが日本一になるために“破天荒なリーダー”が必要だった理由 

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大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2022/01/17 17:00

「完璧な」ではなく「最高のキャプテン」帝京ラグビーが日本一になるために“破天荒なリーダー”が必要だった理由<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

「3年生までは人の話もろくに聞かなかった」と自身で語るほど、いわゆるリーダータイプではなかった帝京大・細木。主将として大学日本一を達成した

 対抗戦で全勝優勝を飾ったときの会見では「上山や押川がキャプテンになっても、いいキャプテンになっていたと思う」と言い、細木については「最高のキャプテン」と評した。

 この表現は面白い。岩出監督が細木に贈った賛辞は「最高のキャプテン」であり「完璧なキャプテン」ではない。「完璧」つまりバランスを求めたなら細木主将はありえなかった。優勝を取り戻すには、集団から逸脱しても、誤解を招いたり軋轢を生んだりしたとしても、常識を外れたアンバランスな人間でも、かまわず突き進むパワーが必要なのだ――岩出監督はそう思った。

 だから、学生が自分たちの代のキャプテンを選ぶミーティングを重ねる際も「こういう部分は考えたか?」と学生に問いかけ続けた。岩出監督は「僕が決めたんじゃない。学生が自分たちで選びました」と言うが、選択肢を俎上にあげ、選択にあたっての材料を考えるヒントは与えていた。

 岩出監督就任当時から帝京大を見続けてきた記者も、今季の優勝は細木主将でなければ達成されていなかったと確信している。初優勝だったり、王座から離れていたチームが頂点を取り戻すときには、普通の、万人受けするリーダーでは無理なのだ。

 岩出監督のラストイヤーを勝利で送り出せるのは、細木しかいなかった。そして上山と押川の2人は、細木というキャラクターをキャプテンに置いたときにチームを機能させる、こちらも素晴らしい役目を全うした。

 ……と、今季の帝京大の足取りに感動し、賛辞を送りつつ、勝手ながら長いこと定点観測してきた記者としてはこれからのことも気になる。

 学生は一般的に、目の前で接した素晴らしい先輩から強く影響を受ける。来季の帝京大の学生リーダーは、細木の影響をものすごく受けているだろう。そうなると、細木のキャラクターが、帝京大を勝利に導いた成功例として受け取られる可能性が高い。ものすごく簡単に言うと「細木さんになりたい」と思っている下級生は(特にリーダー気質の選手たちは)多いはず。過去の大学ラグビーでは何度も繰り返された現象だ。

 だが、前年に負けたチームと、前年に勝ったチームでは自ずとチームの置かれた立場が違う。選手のマインドが違う。キャプテンに求められる要素も、通じる部分もあれば違ってくる部分もある。選手自身がそれをどこまで想像できるか。自分の判断や行動に反映させられるか(一方で「それを想像しない力」「鈍感力」が必要なときも往々にしてあるし、シーズン中に迷いがあったり挫折があったりする。そういう起伏こそ、20歳前後の若者が大人数で濃密な時間を共有しながら戦う大学ラグビーの最大の面白さでもあるのだ……)。

 これまでなら、そのへんも岩出監督が陰で巧みにリードしていただろうが……。岩出監督の後を継ぐ次期監督が、どんなふうに学生の自主性を引き出し、考えさせていくのかも見つめていきたい。

リーグワン、日本代表でも観たい“雄叫び”

 ともあれ、細木康太郎という型破りなキャプテンの成長物語を目撃できたことは本当に幸せだった。今後はまだ発表されていないがリーグワンのチームで、そして日本代表での活躍も期待される。あのパワーとスクラムの強さ、存在感、向上心(岩出監督は「キャプテンになってから、細木は想像以上に賢かったことに気付きました」と言った)は天賦の才だ。

 世界の舞台でコラプシングを奪ったら、細木はまた雄叫びをあげるだろうか。あるいはキャリアを積んで成長した細木は、また違ったパフォーマンスを見せるだろうか。

 どちらにしても、楽しみである。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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