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「完璧な」ではなく「最高のキャプテン」帝京ラグビーが日本一になるために“破天荒なリーダー”が必要だった理由

posted2022/01/17 17:00

 
「完璧な」ではなく「最高のキャプテン」帝京ラグビーが日本一になるために“破天荒なリーダー”が必要だった理由<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

「3年生までは人の話もろくに聞かなかった」と自身で語るほど、いわゆるリーダータイプではなかった帝京大・細木。主将として大学日本一を達成した

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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Kiichi Matsumoto

「リーダータイプではなかった」という帝京大ラグビー主将・細木康太郎(4年)はいかにして、チームをまとめてきたのか。その軌跡を振り返ります。12月に掲載した「ちょっとヤンチャ、だけど純粋 “帝京大ラグビーの主将”のイメージを覆す細木康太郎が稀有なリーダーである理由」と合わせてお楽しみください。

 これほど激情型のキャプテンは過去いただろうか。

 帝京大のキャプテンにして右プロップ、細木康太郎は吠えた。吠えまくった。スクラムを組むときには相手をにらみつけ、押しまくってペナルティーを奪えば腕を突き上げ、雄叫びをあげた。

 1月9日の大学ラグビー選手権決勝、明大戦では5度にわたって、スクラムで相手のペナルティーを奪い、そのたび、国立競技場には細木の叫び声が響いた。

 あからさまな闘志。オレは強い、オレたちは強いぞ、と思い切り叫ぶ。目の前の相手に自分たちの強さを誇示する。数あるスポーツでも「自制」「謙虚」を求められることの多いラグビーでは異例と言っていいパフォーマンス。

 だが試合が終わると、そんな荒くれ野郎の表情は一変するのだ。

 27-14。帝京大の勝利で試合が終わると、細木は腕を突き上げ、天を仰いで叫び(ここまでは同じだ)、そして泣きじゃくった。仲間と手当たり次第に抱き合い、ねぎらい、全力を尽くして戦った明大の選手と握手をかわし、健闘をたたえた。

 そして細木は、場内インタビューでマイクの前に立つと、嗚咽を繰り返し、絶叫を交えながら、応援してくれたファンや仲間、大学関係者など支えてくれた人たちへの感謝を口にした。

歴代の主将たちとは違う細木の言葉

 連覇中、模範生タイプのキャプテンが多かった帝京大では異色のキャプテン、気が強くてチョーシにのりやすくて人好きで泣き虫なキャプテンは、言い換えれば典型的なガキ大将なのだ。

 4年前までの大学選手権決勝では、帝京大学の優勝キャプテンによる、みごとなキャプテンスピーチが名物となっていた。帝京大ラグビー部のハイライトは、決勝の舞台で、NHK総合の地上波全国放送で、自分たちのキャプテンにスピーチさせること――そんな空気があった。歴代の主将たちは、勝利の喜びと、仲間と周囲の理解者への感謝を、笑顔で、誠実に、過不足なく語るのだった。

 だが、細木のスピーチは歴代のほとんどの主将たちとは違っていた。感謝の言葉は多かったが、言いよどむことも多い。その言葉のすべてがナチュラルだった。

 試合後の記者会見では、インタビューでの涙について質問が飛んだ。

「涙は、自然に出てきて、なぜだか分からない。嬉しかったことと、今までのいろんなことを思って、涙が出てきました」

【次ページ】 対戦相手、レフリーと会話を重ねる

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