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最多記録10得点でも「ちょっと少なかった」大迫勇也(鹿児島城西)が語る“半端ない”伝説の選手権「最近、うちの娘まで言うんで」
text by
内田知宏(スポーツ報知)Tomohiro Uchida
photograph byShinji Akagi
posted2022/01/10 07:15
大迫が第87回選手権で挙げた「10得点」はいまだに破られていない大会記録だ
「高校では、すべてにおいて1ランク上の力を持っていた」
「大迫は当時から強いボールもしっかり止められた。前にも抜けられる。このまま伸びていけば、将来、日本をしょって立つだろうなと感じた。(富山一高から'96年に鹿島に入団した)柳沢敦を初めて見た時のような衝撃を受けた。クラブとして高卒FWを獲りに行くという方針が決まったとき、もう大迫しかいないと強く推した。迷うことはなかったよね。それだけ高校では、すべてにおいて1ランク上の力を持っていた。
うちの場合、人間性も重要視する。それはプロに入ってから伸びるか、伸びないかの要素にもなるからね。高校の監督さんに話を伺う場合が多いけど、練習は熱心にこなすし、責任感も人一倍あるということだった。初めて見た時からの成長が、それを証明している」
鹿児島城西は優勝候補の一角としてマークされ、相手は中でも背番号9への対応に多くの人数を割いてきた。それを苦にせず、大迫は得点を重ねていく。続く大阪桐蔭戦で左右の足から1得点ずつの2得点。得点ランク単独トップに立った。「チームでもっと点を取りたい」と臨んだ3回戦の宇都宮白楊戦では、利き足ではない左足で約20m先のゴールに突き刺し、3試合連続の2得点。4アシストも記録した。両手を翼のように広げる大迫のゴールパフォーマンスが、強く印象に残った。
鹿児島城西の練習場は土が柔らかく、大迫いわく「砂漠」のようだった。そこで鍛えられた下半身に支えられ、ポストプレーと強烈なシュートでゴールを量産した。まだ華奢だった上半身には冬風が入り込み、ユニフォームの背中を風船のようにふくらませて、仲間のもとに走って喜びを分かち合った。
大迫がボールを持つと3人、4人と寄せられ……
準々決勝の滝川二戦でも2得点、準決勝の前橋育英戦で1得点を重ね、平山相太らがマークした大会記録の9得点に並んだ。テレビでも特集され、スポーツ紙では一面で報じられるようになった。
大きな注目が集まる中で迎えた決勝の広島皆実戦。大迫は前半20分に相手DF3人に囲まれながらも、強引に前進してゴールを決めた。それでも派手に喜ぶでもなく、仲間といつものように抱き合うだけ。「点を取って勝たせる」。そこだけに集中した。
その後は、大迫がボールを持つと3人、4人と寄せられ、チャンスをなかなか生かすことができなかった。ハーフタイムには「全部が中途半端」とチームメイトに檄を飛ばしたが、2-3で敗れた。
試合後、倒れ込む選手が多い中で、大迫は腰に手を当て、視線をまっすぐゴールに向けていた。涙を流すことはなかった。試合後の取材エリアでは「自分の力不足だった。自分が決めておけば勝てたと思うのでチームに申し訳ない」と言葉を残している。今も選手権と同じ感覚で世界と対峙している。
――滝川二戦では相手の主将、中西隆裕から、あの「大迫、半端ないって」という言葉が生まれました。