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最多記録10得点でも「ちょっと少なかった」大迫勇也(鹿児島城西)が語る“半端ない”伝説の選手権「最近、うちの娘まで言うんで」
text by
内田知宏(スポーツ報知)Tomohiro Uchida
photograph byShinji Akagi
posted2022/01/10 07:15
大迫が第87回選手権で挙げた「10得点」はいまだに破られていない大会記録だ
「こっち(都会)の人の感覚とは違うんですよ」
「終わってみて思うのは、通過点みたいな感じ。一喜一憂していなかったですね」
――選手権への憧れはありましたか。
「全然見ていなかったんです。周りは選手権、選手権って言っていましたけど、僕個人としてはそんなに選手権に憧れもなかった。ただ、プレーしてみてスタジアムの雰囲気は最高でした。高校生であれだけ人が入った中でサッカーすることはなかなかないですから。ああいう経験ができることは、すごく良いことですよね」
――そういう感覚を聞くと、時代の移ろいを感じます。
「たぶん、こっち(都会)の人の感覚とは違うんですよ。鹿児島だからJリーグのテレビ中継もないし。年に1回、ジュビロ磐田が鴨池で試合をするくらいなんで。プロの人も周りにいないし、どうすればプロになれるかも分からないようなところだった。それぐらい田舎でしたから」
――その中でも初戦から2得点。緊張している様子はまったく感じられなかった。
「緊張って、どういうことなんですかね。緊張は自分でしっかりと整理していけば、自然と感じなくなるんじゃないですかね。前からやるべきことをきちんと整理して臨めば大丈夫。自分がするべきことを常に考えて取り組むようにしていました」
――目標は4強と言っていましたが。
「そうですね。普通にやれば、いけると思っていました」
「1年生なのになぜ、こんなに何でもできるのだろう」
不安に思う母とは対照的に、スタンドには確信を持ってプレーを見ていた人がいた。高校卒業後、入団が内定していた鹿島アントラーズの椎本邦一スカウト担当部長(役職は当時)だった。「すごいストライカーですね」と声をかけると「高校生の中では抜けているよ」と言って、大迫との出会いを語り始めた。
「出会いは約2年前かな、大迫がまだ高校1年生の時だった。鹿児島には高校生を見に、年2、3回足を運んでいるけど、その中ですぐに目についた。1年生なのになぜ、こんなに何でもできるのだろうと思ったよね。スカウトをやっていて、この選手だと感じる瞬間って、意外と第一印象なんだ。第一印象でこれだと思った選手はオファーに至るし、『うまいけど』『良い選手だけど』と感じた選手はオファーに至らないことが多いんだよな」
当時、鹿児島・指宿でシーズン前のキャンプを張っていた浦和レッズがいち早く目をつけ、大迫を練習に招いた。最終的にはJリーグ6クラブによる争奪戦となり、浦和優勢と見られた中で大迫は鹿島行きを決断した。本人は「誰にも相談しなかったから、鹿島に行くって報告した時はみんなびっくりしていた」と振り返っている。椎本の「第一印象説」にのっとって動いた鹿島が逆転で獲得に成功した。職業柄、選手に向ける目が厳しい椎本をもってしても、絶賛は止まらなかった。