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井上康生(43歳)が考える、この先の日本柔道に必要なこと「強いだけではダメだと思うんです」「監督なんて、頼りなさそうなくらいが…」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTomosuke Imai
posted2021/12/30 11:06
井上康生の実像に迫る短期連載。最終回は本人インタビュー(取材協力 公益財団法人講道館)
でも、開催延期があって、2021年もコロナの感染拡大で世論は開催反対に大きく傾き、直前まで開催されるかどうかわかりませんでした。その中で、まず、いかにモチベーションを保つかという戦いがありました。それを乗り越えた上で、例えば、73キロ級の大野(将平)は、前の2階級が金、金ときて、その上、2連覇もかかっていた中で試合に臨んでいました。彼の心境はどうだったのか。81キロ級の永瀬(貴規)は、金、金、金と3階級続けて金メダルのあとの試合でした。そのときの心境を想像できますか? そこに思いを巡らせることなく簡単に片づけてしまうと、それは困ったものだな、と思います。パリ五輪に向け、大きな落とし穴にならなければいいのですが。
「能力がないということを自覚している」
――いくらよき理解者に囲まれていても、おそらく監督には、監督にしかわからない苦悩があるものですよね。監督とは、やはり孤独なんだなと思いました。
井上 パリ(五輪)まで続けているのなら、たぶん、今も孤独だったんでしょうけど。もう、鈴木先生にパスしましたから。
――鈴木監督は、「俺はEXILEと一緒にステージには立てない」と話していましたが。
井上 いや、意外と立つんじゃないですか。監督になったら、いろんな角度から物事を見る目が必要になってきますから。視野が狭くなると、何か壁にぶつかった時も、やれることが限られてきます。どんなことでも、まずは、おもしろがってみることってすごく大事じゃないですか。こんな世界があるのかとか、いろんな発見がありますし。
――大変失礼な言い方になるのですが、なんとなく周りの方々は康生さんを「名監督」みたいに祭り上げることに抵抗感があるようですね。
井上 いやいや、その通りですから。能力がないということを自覚しているから、いろんな人の力を素直に借りることができたんです。自分だけで完結しようなんて、まったく思っていませんでしたので。監督なんて、頼りなさそうなくらいがいちばんいいんですよ。
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