猛牛のささやきBACK NUMBER
「長い説教はせず、短い言葉で背中を押す」オリックス中嶋監督が選手に与えた“見放されていないんだ”という安心感
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/12/30 06:02
オリックスを25年ぶりのリーグ優勝に導いた中嶋監督。2年目の紅林やホームラン王を獲得した杉本らを輝かせる手腕が際立った
リーグ優勝後の記者会見で、監督として一番心がけていることは? と聞かれた中嶋監督は、こう答えた。
「自分はあまり、監督という役職に関して感じるものがない。責任を取るのはもちろん監督ですので、それは自分がやればいいことなんですけど、(選手との)距離感というか、そういう意味で、特別な存在ではありたくない、とは思っていました。『あ、来たわ』とか『あいつが来た』みたいなね、そういう存在でありたくはないな、とは思っていました」
練習中の光景を見ていると、その言葉に頷ける。中嶋監督は、選手のそばに自然と溶け込んでいる。
監督とはどんな話をしているのか、印象に残った言葉は? と聞いてみたが、「他愛もない話がほとんどなので、内容はあまり覚えていないんですよね」と答える選手が多かった。
何を話すかよりも、話しかけることに意味がある。
リリーフとして43試合に登板し、キャリアハイの防御率2.27を残し安定感を発揮した山田修義は言う。
「打たれた時に、監督に何か声をかけられることはあまりないんですけど、次の日とかは様子を見にきてくれたり、絡んでくれたりします。他の選手を見ていても、やっぱり前の日に打たれたピッチャーのところに寄っていって、話していますね」
監督が寄り添って声をかけるだけで、選手は「見放されていないんだ」と安心する。
中嶋監督は、長々と説教はしないし、人生訓を説いたりもしない。短い言葉で、選手の背中を押す。
バッテリーミーティングではよくこう話したという。
「結果は気にせず、腕を振ってバッターとしっかり勝負してくれ。打たれたとしても、それはこっちの責任だから」
シーズン序盤はチームの弱点だったリリーフ陣を、中嶋監督はうまくやりくりした。1度や2度の失敗で見切りをつけるのではなく、ヒントを与えながら取り返すチャンスをつくった。その中で何かをつかんだ選手たちが、シーズン終盤、チームの力になった。