猛牛のささやきBACK NUMBER
「長い説教はせず、短い言葉で背中を押す」オリックス中嶋監督が選手に与えた“見放されていないんだ”という安心感
posted2021/12/30 06:02
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Hideki Sugiyama
オリックスの高卒2年目の遊撃手、紅林弘太郎は、日本シリーズ後、街中でよく声をかけられるようになったという。
「反響がすごいです。それまでは全然なかったんですけど。やっぱり日本シリーズ、民放(地上波中継)の力ですね」と満面の笑みで言った。
12球団で最も長くリーグ優勝から遠ざかり、昨年まで6年連続Bクラス、過去2年最下位だったオリックスは、失礼ながら、おそらく12球団一注目度の低いチームだったと思う。いい選手はいるのに勝てない、と言われ続けた。
そのチームが今年、25年ぶりのリーグ優勝を果たした。CSでも劇的なサヨナラで日本シリーズに進出。ヤクルトとの日本シリーズは、力を出し切れたとは言えないが、毎試合見応えのある熱戦を繰り広げた。オリックスが、ようやくスポットライトを浴びた。
監督によって、チームも、選手の人生も、これほどまでに変わるものかと驚かされた1年だった。
中嶋聡監督によって人生が変わった選手の1人が、ショートで我慢強く起用し続けられ開花した紅林であり、ハンドリングの巧さを見込まれて外野からサードにコンバートされ、ゴールデン・グラブ賞を獲得した宗佑磨だった。1番に固定されて打線を覚醒させた福田周平、もっとも多くの試合でマスクを被った伏見寅威もそうだ。
中嶋監督が4番に据えたラオウ
その中でも一番大きな影響を受けたのはやはり、ラオウこと杉本裕太郎だろう。過去5年間ほとんど二軍生活だった入団6年目の30歳が、4番に座り本塁打王に輝いたのだから。
杉本を4番に見込んだ理由を、中嶋監督はこう語っていた。
「長打力というのはもちろん相手にとって圧になりますから。昨年はちょっと率のことに走りすぎていましたが、今年は長打力のほうに走ってくれたので。やっぱり(3番・吉田)正尚のうしろが一番難しい。誰を当てはめるかという時に、最適な人間かなと。まああの性格ですので、落ち込みやすい時もあるんですけど、乗ったら手が付けられないところもありますので」
「ダメになったら取り替えようと思っていたけど、なかなかダメにならなかった」と冗談交じりに付け加えたが、ダメにならないように、変化を見逃さず、絶妙なタイミングで助言を送り、支え続けた。
杉本が大振りになっているのを察すると、グラウンドではなく室内で打撃練習をさせ、コンパクトに振る意識を取り戻させた。安打が出ず、自信を失いかけた時期には、「今はお前に投げるのがピッチャーは嫌なんだから、もっと自信持っていけ」と勇気を与えた。