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「原さんはハワイ旅行だけど、僕はパーカー」徳本一善42歳はなぜ青学大・原晋監督を慕うのか「僕らは箱根駅伝の野党なんです」
posted2022/01/01 11:04
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Mutsumi Tabuchi
人格者だから強いわけじゃない
「人間できてなくても強いやつは強いっていうのが僕の持論ですよ」
選手と寝食を共にして、生活面にも規律を求める。汗と涙のスポ根的熱血物語の結実、と見えなくもないのだが、監督が徳本である以上それはやはり違う。というか、もうちょっと回りくどい。
「強いスポーツ選手は必ず人格者であってほしいという大衆の願いがあるけど、それとこれとは別の話だと自分は思っています。大谷翔平選手みたいに本当に純粋で、人格的にも素晴らしい人間が強くなることもあるけど、人格者だから強いわけじゃない。たまたまその人が人格者だったっていうのが答えなんですよ。このロジックがわかってないと痛い目を見るよ、と学生には教えてます」
就任当初は部員たちがタバコを吸ったり、パチンコに行くのが当たり前だった。それらは必ずしも悪い行為ではない。学内には喫煙所が設置されているし、パチンコだって校則で禁じられているわけではない。
だから回りくどく、こう諭してきた。
「スポーツをしている学生って“ひたむきで前向きに頑張っている”っていう先入観が世の中にはある。俺たちはそれに応えなきゃいけない責任みたいのが、なんか若干あるんだよ。それに乗っかった方が俺たちは生きやすいし、応援してもらいやすい。それを使おうぜ」
偽善上等(真の善といえる学生ももちろんいるはずではあるが)。偽悪的に振る舞って多くの敵を作った徳本だからこそ、世間を味方につけることの効率性を説くことができる。
スポーツ選手は聖人君子たれ! と叶わぬ理想を押し付けるよりは、その方が学生たちも「なんか若干」わかった顔をするのだという。
自分が箱根を走った当時と比べて「この時代は違う世界」
徳本が学生だった2000年代前半、箱根駅伝はすでに関東ローカルの駅伝大会の枠も陸上界の枠も越えた正月のビッグイベントではあったものの、まだ山の神もいなければ、毎年『大作戦』を決行するようなフレッシュグリーンのチームもいなかった。